祈りを捧げる聖ヒエロニムス:ボスの世界

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聖ヒエロニムスを描いたもうひとつの作品「祈りを捧げる聖ヒエロニムス」においても、ボスはこの聖人を廃墟の中に位置させている。聖ヒエロニムスは自伝の中で、荒野での修行の苦しさを語っていたが、それをボスは廃墟と言う形で再構成したのだろう。

聖ヒエロニムスが横たわっている廃墟は、背景となる田園の風景と著しいコントラストをなしている。洞窟の入り口のようなものが大きく口をあけ、それを取り囲んで破壊的なイメージが展開している。その中で、朽木の枝にとまっているフクロウは、悪の象徴だ。フクロウはまた、前面の水たまりにも影を落としている。

聖ヒエロニムスは、赤い法衣を脱ぎ捨てて洞窟の入り口付近に身を横たえ、両腕の間にキリストの十字架像を抱きかかえて、しきりに祈りを捧げている。その祈りはおそらく、迫りくる誘惑からわが身を守ろうとするためだろう。というのも聖ヒエロニムスは、荒野での修行の最中、何度も肉の誘惑に苦しんだと語っているからである。

画の中に描かれている腐敗した果実のイメージは、そうした肉欲のシンボルと解釈することもできる。

(パネルに油彩、77×59cm、ゲント美術館)


関連サイト:壺齋散人の美術批評





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