慶元五年(1199)75歳の春、陸游は沈園を再訪した。40年前に訪れたときには、思いがけず愛する人唐婉と出会ったのだったが、今は無論誰とも出会わない。
そんな寂寥の感と、唐婉の思い出を込めて、陸游は二首の絶句を作った。
(其一)
城上斜陽畫角哀 城上の斜陽 畫角哀し
沈園非復舊池臺 沈園は復た舊池臺に非ず
傷心橋下春波綠 傷心 橋下 春波綠なり
曾是驚鴻照影來 曾て是れ驚鴻影を照らし來るところ
城壁の上に夕日が傾き角笛が悲しい音を響かす、この沈園にもはや昔の池や楼閣はない、傷心して眺めれば橋の下には春の波が緑に輝いている、この水面はかつて彼女の影を映していたのだ(畫角は模様のついた角笛、驚鴻は飛び立つ鳳で美人の姿のたとえ、ここでは唐婉をさす)
(其二)
夢斷香消四十年 夢は斷え香は消えて四十年
沈園柳老不吹綿 沈園 柳老いて綿を吹かず
此身行作稽山土 此の身は行くゆく稽山の土と作(な)らんとも
猶弔遺蹤一泫然 猶ほ遺蹤を弔ひて一たび泫然たり
夢は消え、香りも失せて四十年、沈園では柳が枯れて綿を吹くこともなくなった、この身はゆくゆく会稽山の土となろうと、思い出の場所を訪れると涙が落ちるのだ(泫然は涙がしきりに落ちるさま)
関連サイト:漢詩と中国文化
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