安倍自民党総裁のインフレターゲット論

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安倍自民党総裁がインフレターゲット論を主張して、ちょっとした注目を集めている。市場はその主張に反応して、株高円安に傾いているほどだ。それなりに期待されているということか。

安倍総裁の主張を簡単にまとめると、次のようなものだ。デフレを脱却するために、政府と日銀が協力して2~3パーセントのインフレターゲットを設定する。そのためには、じゃぶじゃぶといってよいような(量的)金融緩和を図る。具体的には、政府の発行する国債を日銀が無制限に買い入れる。こうして手にした金をもとに、政府は大規模な財政出動を行う。先般自民党がまとめた国土強靭化法案に沿って、今後10年間にわたり200兆円規模の金をインフラ整備にあてようとするものだ。

一見すると、金融・財政両面から景気にテコ入れしようとする主張のように見える。しかしよく目を凝らすと、そこには巧妙な意図が隠れていることが浮かび上がってくる。安倍総裁の本音は、国土強靭化法案の実現の方にあり、インフレターゲットは、その方便に使われているのではないか、ということだ。増税を巡って国論が湧かれているときに、更なる借金を重ねて公共事業を行うことには、何となく後ろめたさが付きまとう。しかし、デフレ脱却という錦の御旗を掲げれば、胸を張れるのではないか。安倍総裁には、そう考えたフシがある。

それでも、増税と財政規律に凝り固まり、景気に冷や水を浴びせ続けている野田民主党に比べれば、幾分かは前向きさが感じられる。しかし、鵜呑みにできないところがある。つまり、この主張には胡散臭さが潜んでいるのだ。

まず、インフレターゲットは、強制的にインフレを起こさせるための手段ではない。それはあくまでも、インフレを抑えるために考えられたものだ。そうした性格のものを、デフレ対策として適用しようとするのは、無責任な態度といわねばならない。そのことは、先日紹介したリチャード・クー氏の云う通りである。物価が上昇するのは、景気過熱の結果なのであって、物価を強制的に上げたからといって、景気がよくなるとは限らないのである。

今の日本の経済情勢では、民間セクターには国債発行を消化する十分な能力がある。なにも日銀に買わせなくても間に合うのである。だから、民間セクターから集めた金を、公共事業に充てればよいだけのことだ。そうすれば、金は確実に回り、仕事が生まれ、そのことから需要が生じ、景気は上向いて、物価も自然に上昇していくはずなのだ。景気上昇のためにインフレターゲットを云々するなら、経済の自然な動きに反しないような方法を考えなければならぬ。日銀に無制限に紙幣を印刷させるような方法は、邪道である。

にもかかわらず、安倍総裁の思惑通り、強制的に名目金利を引き上げたら、どうなるか。国家財政の破綻とスタグフレーションの進行である。金利の引き上げに伴って当然国債の金利も上昇する、国庫の利子負担は膨大なものになり、その利払いだけで予算が消えてしまう。つまりギリシャと同じような事態が待っているわけだ。また、名目金利の上昇だけが進み、景気が良くならないと、インフレ下の不景気、すなわちスタグフレーションに陥ることは、経済学のイロハだ。

無責任な火遊びの代償は、あまりにも大きいのである。

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