夜讀兵書:陸游を読む

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紹興23年、29歳の歳に、陸游は科挙の地方試験たる両浙漕試に主席合格するのだが、翌年行われた中央試験(省試)で落第してしまった。前例によれば、地方試験で主席合格したものが、中央試験で落第することはないのであるが、時の宰相秦檜が、自分の孫を首席で合格させ、陸游を落第させたのであった。

最期のチャンスを逃した陸游は、役人としての出世の道を閉ざされ、郷里の紹興に引きこもって悶々とした毎日を送るようになった。

陸游の平生の志は、宿敵金に打ち勝って、失われた領土を取り戻すことだった。しかし秦檜らの和平派が主導権を握る政権の下では、その望みがかなう可能性は殆どなかった。

陸游は個人の身の上においても、国家を憂える点においても、不本意な生き方を迫られたのである。

しかしそうではあっても、陸游は来るべき機会に備えて勉学にいそしんだ。彼が好んで読んだのは、兵書である。


夜兵書を讀む(壺齋散人注)

  孤燈耿霜夕  孤燈 霜夕に耿らかなり
  窮山讀兵書  窮山 兵書を讀む
  平生萬里心  平生 萬里の心
  執戈王前驅  戈を執って王の前驅たらん
  戰死士所有  戰死は士の有る所
  恥復守妻孥  復た妻孥を守るを恥ず
  成功亦邂逅  成功も亦邂逅なり
  逆料政自疎  逆料せんも 政に自ら疎し
  陂澤號飢鴻  陂澤 飢鴻號び
  歳月欺貧儒  歳月 貧儒を欺(あなど)る
  歎息鏡中面  歎息す 鏡中の面
  安得長膚腴  安んぞ長へに膚腴たるを得ん

霜降る夕べに蝋燭をともし、山の中で兵書を読む、日頃より万里を駆け回る心を持ち、戈をとって王の前衛として戦うつもりのわしじゃ

戦死するのは兵士の本分、妻子のことで汲々とはしておられぬ、成功も運次第、あらかじめ備えようにもうまくはいかぬもの(逆料はあらかじめ思料すること)

沼地には飢えた鴻が叫び、歳月は貧儒の自分を嘲るように過ぎていく、ため息をついて鏡の中の顔を見れば、いつまでも若くはいられぬと悟るのだ(膚腴:肌がつややかなこと、若いこと)


関連サイト:漢詩と中国文化 





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