銀座のアナゴ料理屋で飲む

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旧友Yから「脳の病状から解放されました」と題するメールがきて、今年初めにくも膜下出血で倒れて以来、四回にわたる開頭手術を受けて、ようやく症状安定し、酒も飲めるようになった旨のことを知らせて来た。そこで彼の快気祝いを兼ねて、忘年会を催すことにした。場所は銀座のアナゴ料理屋「はかりめ」という店である。

いつのもメンバー四人のほかに、Yの細君も参加した。筆者が開口一番「えらいい目にあったね」というと、本当に大変だったのは自分より女房の方だったかもしれない、とYがいった。一度や二度ならともかく、亭主が四度も開頭手術を蒙るのでは、配偶者としては、いてもたってもいられないという気持になるだろうことはわかる。それにしても、酒が飲めるほど回復したのはよかった。ということで、まず皆で乾杯した。

今年の初春に友人たち三人で見舞った時には、病巣は完全に取り除かれたわけではなく、もう一度開頭手術をする必要があるとはいっていたが、それが一回ではなく三回になったわけだ。だが開頭といっても、頭蓋骨を外すわけではなく、病巣に近い部分の骨に穴をあけて、そこから処置を施すのだそうだ。処置が終わった後は、その穴を人工の蓋で塞ぐ。患者としてはそんなに大きな負担にはならない。むしろ家族の精神的な負担の方が大きいと言える。そういう具合なのだそうだ。

アナゴのコースというのを頼んだので、作り物を手始めにして、様々な料理が出てきた。筆者は、いつか羽田の小料理屋でアナゴのフルコースを食ったことがあるが、その際には、湯通しのアナゴは出てきたが、刺身は出てこなかった。アナゴの刺身を食うのは、今夜が初めだ。だが、これが歯ごたえがあって、なかなか乙な味がする。

ビールで乾杯が終わると、酒にかえた。獺齋という酒がある。先日の見舞いの帰りに五反田の酒屋で飲んだことがある奴だ。その折の喉越しが悪くなかったといって、Mが進んで注文した。こいつのほかに、八海山やら九頭竜やらといった銘柄を頼んだ。料理はリーズナブルな価格なのだが、酒はけっこう高いらしい。それでも値段のことなど気にせずに、次から次へと頼んだ。

YとOは、来年の三月を以て現役引退となるそうだ。そこで引退後は何をやるつもりかと言う話になった。Yは大学に入り直してなにか研究をするつもりだという。今現在大学に通っているMは、是非マクロ経済学を研究したまえと頻りに薦める。Oは、しばらくは何もしないで英気を養うつもりだという。先日は細君とともに北欧旅行を楽しんだそうだが、卒業後は本格的に海外旅行を楽しむつもりだなどと、優雅なことをいっている。

その後、現在進行中の総選挙の話だとか、野田も安倍も馬鹿な奴らだとか、極右がどれほど勢力を伸ばすだろうかと言った話をした。YとはTPPの是非について論争した。Yは是非TPPに加入すべきだと持論を述べる。筆者は食糧安保の面からTPPへの無条件加入は問題だと述べる。YがTPPへの加入に賛成なのは、彼が日頃かかわっている中小企業の利害を反映してのことだろう。それに対して筆者は、一部の政治家のように、何が何でも反対と言うことではない。食糧安保を十分に担保して、それとセットでやるのなら反対する理由はない。しかしいまの政治家たちのいうことをきいていると、食糧安保はそっちのけで、とにかく貿易の自由化の利益だけを追求しようとする姿勢がありありだ。それではかつての林業自由化の二の舞になる。日本の食糧安保は一夜にして崩れる。筆者はそう主張したのだった。

それにしても、最近の日本の政治情勢には憂うべきものがある、という話になった。リベラルな連中はすっかりなりを潜め、右翼ばかりが威勢がいい。このままだと、選挙後にはウルトラ右翼の風潮がのさばるようになるかもしれない。その原因の一端は尖閣をめぐる中国側のかたくなな態度にある。民主党の阿呆外交のおかげで、中国にしたい放題をさせ、それに対して国民が憤っている。その憤りが、対中強硬の世論を掻き立てる原動力となって、右翼の進出を促している。日頃左翼的な傾向を自認している筆者などには、そうした風潮が危険なものに思えるのである。

そのうち、アナゴのしゃぶしゃぶとあいなった。まず鍋の湯を沸騰させて野菜を入れ、アナゴの切れ実は一口分づつ入れる。煮込んでしまってはまずくなるのだ。さっと湯にさらしたやつをゆずのポン酢に浸して口にいれると、何とも言えない歯触りで頗るうまい。これでトラフグの白子でもあったら申し分ない、などと勝手なことをいったりする。ところで最近トラフグのオスの養殖に成功したそうだから、近いうちにトラフグの白子をリーズナブルな価格で食えるようになるかもしれないね、と誰かが言う。

アナゴのコースに誘われて、大分飲み進んだようだ。請求書の金額からして、全員が一升酒を飲んだ勘定だ。

こんなに飲めるほどに回復したのなら、旅行もできるだろう。暖かくなったら、このメンバーでどこかの温泉に行き、うまいものを食いながら月見酒でも飲むことにしよう。そんなふうに言い合いながら散会した次第だった。五時半から始めた宴会は、終わった時には十時近くになっていた。

(参考)洗足池散策 





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