財政の崖(Fiscal Cliff)で妥協成立

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所謂財政の崖(Fiscal Cliff:増税と政府歳出カットのダブルパンチ)を巡って交渉を続けてきたオバマ大統領と議会との間で妥協が成立し、最悪の事態は回避されたと伝えられた。それにしても、きわどい妥協だった。崖の裂け目が開く日の前日の、それも夜に入ってからのことだ。まず上院で可決し、下院ではその翌日以降に採決される見通しだという。法案の取り扱いをめぐって、大統領と議会がこれほど鋭く対立したのは、近年まれなことだ。

妥協の結果は次のようなものだ。増税の対象は年間45万ドル以上の世帯、最高税率はこれまでの35パーセントが39.8パーセントになる。また、配当に対する課税がこれまでの15パーセントから20パーセントに引き上げられる。(いずれも原則)一方、遺産税(相続税)については500万ドル以上が増税の対象となる。また、政府の歳出については、現行の措置を二か月延期し、その間に本格的な歳出枠組みを決めようということになった。

オバマは当初、25万ドル以上の世帯に増税することを主張していたから、大分譲歩したという印象が強い。だが共和党下院のリーダーであるベーマーが先日提出した100万ドル以上の世帯への増税案が共和党議員の反対によって否決されたことを思えば、上出来だったかもしれない。

この結果、今後10年間で見込める財源は6000億ドル。当初は1.6兆ドルの歳入増加を予定していたので大幅な減少になるが、オバマは富裕層への課税が認められたことを善しとして妥協したといっている。共和党にとっても、ここで妥協しなければ減税措置が自動的に切れ、富裕層も含めあらゆる所帯に増税措置が適用されることになるわけだから、潮時だったといえよう。でなければ、元も子もなくなるわけである。

それにしても、これっぽっちの増税話、それも減税の適用を廃止して本則の税率に戻すだけの話(しかも富裕層に限って)なのに、何故共和党はこれほどまでに拒否反応を示すのか、筆者などにはよく理解できないところがある。

聞くところによれば、その背景には本質的な価値観の齟齬があるようだ。共和党の議員の中には、茶会などの保守的な部分が増え、そうした勢力を中心に、政府そのものへの敵がい意識が高まっている。それはもはや小さな政府を主張するどころか、政府そのものの存在意義さえ否定するようなものらしい。そうした勢力は、政府の役割を果たすために税金を払うことには、何らの価値を認めていない。今回の問題をめぐって、妥協がむつかしかったことの背景には、このような勢力が強い影響力を果たしたという事情が働いているらしい。

今回の対立劇を見せられて、アメリカの政治に大きな変動が起きていることを感じさせられる。

価値観をめぐる対立から社会に深い溝ができつつあるのではないか。その溝を挿んで両側に居る人々は、互いに妥協しあうのが難しくなっている。その非妥協的な雰囲気に政党までもが感染し、政治的な妥協をはかる余裕を失っている。とりわけ共和党は、社会の統合よりも富裕な白人層の利益に固執しているような印象を与える。(写真はAPから)





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