東京家族:平成の東京物語

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山田洋次監督作の映画「東京家族」を見た。この映画を山田監督は、おととし(2011年)の秋に公開する予定で準備を進めていたところ、3.11が起きた。そこで、3.11に何も触れないまま映画作りを進めてしまったら悔いを残すことになるだろうと考えた監督は、いったん映画作りを中断し、シナリオを書き直し、キャストも変更して、改めて映画作りをした。その結果がこの「東京家族」となった。

東京家族は題名から容易に連想されるように、小津安二郎監督の名作「東京物語」のリメイクである。東京物語と同じような話を現代の日本に移して物語っている。時代は変わったが日本人の家族のあり方は基本的には変わっていないのではないか、そんなことを訴えてくるような内容になっている。そこに、3.11を絡ませるというのが山田監督の意図だったようだが、映画を見た限りでは、3.11にはさらりとした言及があるばかりで、正面から問題とはされていない。舞台はあくまでも東京である。しかしそれとなく言及するという形で、3.11がひとびとの生きざまに深い影を落としているということを、自然に訴えるようにおさめている。

田舎に住む老人夫婦が、子どもたちの住んでいる東京にやってくる。しかし子どもたちにはそれぞれに生活があって、両親を手厚くもてなすことができない。両親はついに子どもたちの家で寝ることができず、町をさまよい歩く羽目になる。東京物語で展開されたあらすじがここでも展開される。違うところは東京の風景が変っていることだ。千住のお化け煙突の代わりにスカイツリーが映し出され、横浜みなとみらいの夜景が華やかに映る。こういう光景を見ると、時は無駄には流れていなかったのだ、と感じさせられる。

母親が突然死んで、田舎の家で葬儀が執り行われるところも、東京物語と同じだ。その田舎は尾道ではなく瀬戸内の離島に設定されている。そこへ子どもたちが集まる。末の弟は恋人を伴っている。その恋人を父親が次第に受け入れる過程が描かれる。東京物語では、原節子と香川京子が、例の有名な「いやあね、生きることって」と語り合うが、この映画では父親が末の息子の恋人に、「あなたはいいひとだ、息子をお願いします」といって頭を下げる。ファイナルのシーンをこう変えることで、山田監督は自分独自の人間観を映画の中に盛り込みたいと考えたのだろう。

小津映画のリメイクぶりは話の内容ばかりではなく、演出の仕方にも及んでいる。山田監督はこの映画の中で、小津式とされる例の独特の画面作りをしているのだ。長いカット、低いカメラアングル、登場人物たちが肩を並べるシーンが多いこと(ホテルのレストランの食事のシーンでも、老人夫婦は仲良く横に並んで食事をするのだ)、そして登場人物たちを正面からアップで映し出し、彼等がカメラに向かって話すという演出、こういったものが体系だって展開されている。

俳優の演技の中では吉行和子さんが抜群によかった。東京物語では東山千恵子の演じる母親より、笠智衆演じる父親の存在感のほうが大きかったが、この映画では吉行さんの存在感が圧倒的に迫ってきた。常に笑みを絶やさず、夫や子や孫を慈しみ、末の息子の恋人(蒼井優さんが演じていた)には、あなたは良い人だと言って微笑みかける。誰だってこんなひとに微笑まれたら心が和まずにはいられないだろう。(写真は公式サイトから)





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