定拆號日喜而有作:陸游を読む

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陸游が赴任した夔州は三峡の一角にあって、付近には白帝城がある。古来風光明媚で有名なところであった。杜甫が晩年の二年間ほどをここに滞在し、数々の名作を詠んだことはよく知られている。

通判という職は、知事に準じる職であるが、あまり忙しくはなく、文人にとっては創作のための時間がたっぷり持てたようだ。

その通判の多くはない職務のうちの一つに、解試(科挙の地方試験)を主宰するというものがあった。科挙は三年ごとに行われたが、陸游が夔州通判に赴任した翌年がその年に当たっていた。赴任したのは十月のことだったから、すぐに年が明け、試験が行われたわけである。

解試の試験官は、会場に四十日間缶詰にされ、試験問題の作成から採点、合格者の決定まで行わねばならない。合格者の発表を「拆號(たくごう)」というが、その様子を陸游は一篇の詩に詠んだ。


拆號を定むる日、喜びて作有り

  少雨如絲落復収  少雨絲の如く 落ちては復た収まる
  悄無人語但鳴鳩  悄として人語無く 但鳴鳩のみ
  挽鬚預想諸児喜  鬚を挽いて預め想ふ 諸児の喜ぶを
  倒指猶為五日留  指を倒せば猶ほ為す 五日留まるを
  滿案堆書惟引睡  案を滿たす堆書は 惟だ睡りを引くのみ
  侵天囲棘不遮愁  天を侵す囲棘は 愁ひを遮らず
  為農父子長相守  農を為して 父子長く相ひ守らんに
  誤計随人學宦遊  計を誤り 人に随って宦遊を學ぶ

糸の如き少雨が落ちては止み、あたりには人語を聞かずただ鳩の鳴くのが聞えるのみ、髭を引きながら子どもたちとの再会を思うが、指折り数えればあと五日もここにおらねばならぬ(倒指:指を折って数えること)

机にうずたかく積まれた書物は眠りを誘うのみ、天にまで届くかのバリアーでも愁いを閉じ込めることは出来ぬ、先祖代々の農業を営んでおけばよかったものを、計を誤ってこうして地方の小役人生活を送る羽目になってしまった(囲棘:試験官が外に出るのを防ぐために設けられた柵のこと、宦遊:地方の役人生活)


関連サイト:漢詩と中国文化 





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