山口昌男氏死す

| コメント(0)
山口昌男氏の著作の中で初めて読んだのは「道化の民俗学」だった。読んで早速とりこになった。以来その著作を次々と読んだ。当時はレヴィ・ストロースらを中心とする構造人類学が世界的に流行っていたが、山口氏の著作も基本的にはその流れに掉さしたものだったように思える。

「道化の民俗学」の中で氏が展開していたのは、イタリア生まれの道化アルレッキーノと、その淵源としての中世カーニバルの道化役の、文化人類学的な意義についてだった。道化というのは、王様に対しては一方的にマイナーな立場にあるように思われるが実はそうではない。王様が王様として成立するのは、王様を王様として認める臣下がいるからこそだ。だから道化と王様とは両者一体になって初めて成立しうる相補的な関係にある。一方がいなければ他方もなりたたない、そんな関係にある、ということを明らかにした。

そこから中心と周縁、聖と俗、昼と夜、死と再生などと言った一連の二項対立の関係が摘出される。世界の文化とは、この二項対立によって世界の意味を解き明かそうとする、人類普遍の傾向の現れなのだ。そんなことを氏は主張したのだった。

そんなわけだから、氏は支配者の視点から歴史や文化を見るという、きわめて偏った態度から自由であった。そんな姿勢が、日本の歴史解釈にもユニークな視点を持ち込むことにつながった。死の晩年の著作「敗者の精神史」は、維新の勝組たる薩長藩閥勢力の視点から歴史を解釈するのではなく、敗れた側の視点からも歴史の真実にせまろうとした力作である。

思えば、氏は日本人の学者としてはまれに見るスケールの持ち主であった。その山口昌男氏が81歳で亡くなった。残念なことだ。冥福を祈りたい。


関連記事:敗者たちの生き方:山口昌男「敗者の精神史」





コメントする

アーカイブ