プーチンと安倍総理の温度差

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4月28日に「主権回復の日」を祝った安倍総理が、大規模な経済ミッションをともなってロシアを訪問し、プーチン大統領と未解決の「主権回復」問題について話し合った。その結果出された共同声明と、共同会見での両首脳のコメントが新聞紙上に掲載されていたので、一読した次第だ。

一読した限りでは、日露関係強化の必要性はうたっている。メドヴェージェフの時代に両国関係が冷え込んでしまったことを思えば、関係回復への意欲を示せただけでも意義があるといえる。しかし、プーチンがこれまで日本に向けて発信してきたメッセージからすれば、ちょっと肩すかしの印象を持たざるを得ない、というのが正直な感想だ。

プーチンは、昨年3月1日に、日本の朝日新聞を含めた外国メディアとの懇談会で、日露関係の強化に強い意欲を示し、「ひきわけ」という言葉を使って、日露両国が相互に受け入れ可能な条件で領土問題を解決したうえで、平和条約締結に強い意欲を示していた。それを踏まえて安倍総理は、今回の訪問に先駆けて森元首相を特使に立て、首脳会談への露払いをさせていた。そんなことから、今回の首脳会談では、領土問題解決に向けてのかなり踏み込んだ意思表示がロシア側からあるのではないかと、誰もが期待したわけだが、どうもその期待はあまり報われなかったようだ。

共同宣言は、「日露間で平和条約が締結されていない状態は異常であることで一致」し、「互いに受け入れ可能な形で、最終的に解決することにより、平和条約を締結するとの決意を表明した」と書いているが、「互いに受け入れ可能な条件」を日露両首脳がどのように考えているかについては、何も示されなかった。それは、今後の両国間の実務者レベルでの検討にゆだねるということらしいが、その程度のことなら、2003年の日露行動計画でも触れられていたことだ。と云うより今回の日露首脳会談の最大のアウトプットは、交渉のテーブルを2003年の日露行動計画の時点に戻すことを確認したことだといってよい。

周知のとおり、2003年の日露行動計画による両国間の交渉は何の成果も出さなかった。政治のトップからの具体的な方向付けを示さないまま実務者レベルの交渉を行わせたためだ。今回もその轍を踏む可能性は大いにある。

どうしてこんなふうに、ちんまりと収まってしまったのか。これでは泰山鳴動鼠一匹より始末が悪いのではないか、そんな風に思う向きもあるだろう。

うがった見方をすれば、今のプーチンは昨年3月1日のプーチンよりも余裕があるということなのだろう。昨年のその時点では、プーチンはまだ大統領についていなかったわけだが、大統領になることを当然の前提にしているかのように振る舞い、日露平和条約の締結に強い意志を示した。その真の意図は、日露関係の飛躍的な改善を梃にして、日本からの投資を最大限引き出したいということにあっただろう。そのためには、領土問題である程度の妥協をすることもありうる、そう考えていたのではないか、と日本のメディアは想像力をはたらかせたりもした。

しかし、最近の安倍総理の言動は、プーチンを勇気づける要素に富んでいる。安倍総理は中国との付き合い方がうまくいかないので、どうも中国を押さえつけるネタとしてロシアを位置付けているのではないか。そうだとすれば、今の安倍政権にとってロシアは非常に価値がある存在だということになる。そうであるならば、何も国益を安く売る必要はない。思いっきり高い値段をつけるべきだ。プーチンは、そんな風に思っているのではないか。

最近のプーチンは、経済運営の上で難題に取り込まれている。アメリカのシェールガス革命のあおりで、ロシアの資源外交が相対的に地盤沈下している中で、極東開発の重要性が高まり、それへの日本の経済協力がますます鍵となってきつつある。

そんな中でも、プーチンはしたたかな計算をしているようだ。日本のほうから積極的にすりよってくるのだったら、なにもこちらから頭を下げる必要はない。いまの安倍総理には、こちらから頭を提げなくとも、自分からすり寄ってこようとする動機がある。対中関係がそれだ。そんな風にプーチンは打算しているフシがある。

というのも、共同声明の発表と併せて実施された共同記者会見での、両首脳のコメントを読む限り、安倍総理の前飲めるぶりと対照的に、プーチンは冷静そのものなのがわかる。

安倍総理の方が最初から最後まで平和条約の締結について熱弁を振るっているのに対して、プーチンのほうは主に経済協力について語った。平和条約については申し訳程度に言及しただけだ。

どうも、この舞台を見ている限りでは、プーチンと安倍総理の間にかなりの温度差があることを、感じさせられないではおれないようだ。(写真はロイターから)

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