エジプトにおける聖家族の休息:デューラー「聖母伝説」

| コメント(0)

durer232.family.jpg

デューラーは「聖母伝説」の木版画を1502年に作り始め、そのうちの17枚を1505年のイタリア旅行出発までに仕上げ、その後1510年に2点を追加作成、その翌年扉絵を加えて、書物として出版した。

19点の制作順序は、聖母の伝記の流れと一致しているわけではなく、その時々の感興にまかせて、聖母伝説のなかの出来事をアトランダムに絵にしたようである。ここに紹介する「エジプトにおける聖家族の休息」は、1502年、もっとも早い時期に作られたものである。

聖家族のエジプトへの脱出は、ヘロデによる嬰児殺しを避けるために行われた逃避行ともいうべき出来事だが、この絵ではなぜか、マリアはイエスを抱いていない。そのかわりに糸をつむいでいる。マリアの周りには女たちが取り巻いていて、マリアの糸をつむぐ様子をじっとみている。その一人は羽を生やしているから、天女なのだろう。

マリアの背後にいるヨセフは、木を削って何やら箱のようなものをこしらえているところだ。そしてここには羽を生やした小さな天使たちが、ヨセフの作業から出たおが屑の掃除をしたりしている。この小さな天使たちは、聖母像に従っていたバッタや尾長猿の代替であるかのようだ。

背後には廃墟のようなものが描かれている。この廃墟に関しては、さまざまな解釈が付与されてきたが、どれがデューラーの意図と一致するのか、いま一つ決定打に欠けるものばかりだ。なかには、廃墟は人間の業の空しさを象徴するとする解釈や、いやそうではなく、これは田園の長閑さを表しているのだ、などという解釈もある。

なお、この絵には、透視法が意識的に採用されていることがわかる。

(1502年、木版画、29.6×21.3cm)


関連サイト:デューラーの芸術 





コメントする

アーカイブ