1984年にタイムスリップするアメリカ

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アメリカによる各国首脳への盗聴疑惑が大きな問題となっている。先日はドイツのメルケル首相の携帯電話がオバマ大統領によって盗聴されていた可能性が指摘され、メルケル首相自らオバマに電話をかけ、事実関係の確認と、こうした行為は絶対に受け入れられない旨の表明を行ったそうだが、オバマの方では、自分はそんなことをしてはいないし、これからもするつもりはないと言って、とぼけたそうである。

オバマのいったことはたぶん正直なところなのだろう。正直なところと言うのはオバマ自身が盗聴してないだろうということで、アメリカの諜報機関NSAがしていなかったとは言い切れないようだ。実際NSAによる各国首脳の盗聴疑惑は、ブラジル大統領の電話やメキシコ大統領のメールのほか、フランスやEUなど重要な同盟国まで対象としているとの報道が流れている。

こうした疑惑が明らかになったきっかけは、NSA元職員スノーデンによるリークだ。アメリカはこのリークによって同盟国との関係が悪化するのを恐れて、スノーデンを逮捕して抹殺しようとかかったが、当のスノーデンはいまのところアメリカ捜査当局の追及を逃れている。その間に、NSAによる各国首脳への盗聴疑惑が、あちこちから持ち上がってきたという構図だ。

個人の情報をコントロールすることで、社会全体を管理しようとする発想は、オーウェルが「1984年」で描いた世界を想起させる。オーウェルはこの作品を、ソ連の社会主義を想定しながら書いたということになっているが、それと同じようなことが、ソ連の社会主義に勝利した民主主義国家アメリカでまかり通っているのは皮肉というべきだろうか。

ところで日本の安倍首相は大丈夫なのか、との新聞記者の質問に対して菅官房長官は、「まったく問題ない」と答えたそうだ。といっても事実確認をしたわけではないという。そんなことをする必要がないほど、日本の安倍政権はアメリカ政府を信じ切っているということらしい。

盗聴といえばニクソンの失脚劇を思い出す。ニクソンは米国内の政敵を対象にした盗聴を批判されて失脚したわけだが、その当時のアメリカには、そうしたことを許さないという雰囲気があった。しかしいまのアメリカには、盗聴が同盟国との関係を悪化させるのはまずいというプラグマティックな判断はあっても、盗聴それ自体が悪だという考えは薄らいでいるようである。そうした傾向が強まるということは、アメリカが未来へではなく、1984年という伝説化された時空へタイムスリップしていく姿を想起させる。







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