ネズミの語源

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ネズミという言葉は、「根の国に住むもの」だと新井白石がいったそうだ。それを指摘したのは池澤夏樹氏。読書誌「図書」に寄稿した小文「詩と散文、あるいはコロッケパンの原理」の中でそう書いていた。根の国とは「根の堅州国」ともいって、古事記では異界あるいは地下の世界として描かれている。そこに住む動物だから「根に住む」となり、更に「ねずみ」になったというわけだ。

古事記では、ネズミは大国主神のピンチを救ってくれる動物として出てくる。スサノオの試練に耐えていた大国主神は、野原の真ん中でスサノオの放った火に包まれる。この万事休すの場面に現れて、地下の洞穴に逃れよと忠告するわけだが、その時にネズミが言った言葉は、「内はほらほら、外はすぶすぶ」というものだった。

「内はほらほら」というのは、内部は広々としているという意味で、「外はすぶすぶ」というのは「外部つまり入り口は狭くすぼんでいる」と言う意味だ。洞窟のありさまについて、最低の言葉で効果的に説明しているわけだ。ここで使われている言葉はどちらもオノマトペであるが、そのオノマトペがそれぞれ豊かな意味を持っているから、こういうことができるわけである。

ともあれ、ネズミの忠告に従って地面を踏むと、そこに「ほらほら」としたほら穴が現れ、大国神は窮地を脱することが出来た。

「ほらほら」の方は、現代語でも「ほらあな」のような形で生きている。「ほら」には空っぽという意味もあったようで、「ほら」の変形である「ほれる」は「心が空っぽになる」という意味だ。また「すぶすぶ」の方は現代語でも、「すぼむ」の形で使われている。

日本語にはオノマトペ起源の言葉が多いと、筆者は常々考えているが、古事記を読めば、その手がかりが沢山見つかるのではないか。そんな風に思っている。


関連サイト:日本語の語源 





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