血であがなう権力:エジプトの新たな独裁者

| コメント(0)
140404.sisi.jpg

エジプトでは、5月の大統領選挙に向けて、アル・シーシ将軍が軍服を脱いで立候補を表明したことで、事実上新たな大統領が決まったと言える。というのも、いまのところ、ムスリム同胞団は先の憲法制定時と同じようなボイコット戦略をとるといっており、したがって有力な対立候補がいないばかりか、誰もアル・シーシに対抗しようなどとは考えていないからだ。こんななかで、疑問があるのは、アル・シーシはなぜ、一挙に権力を奪取しないで、時間をかけてゆっくりしていたのか、ということだ。

それは、アル・シーシに対する軍内部の支持基盤が盤石でなかったことに理由があるようだ。エジプト軍は、これまで政治の表舞台に自ら立つことに慎重だったといわれる。だから、軍をあげてアル・シーシを大統領として支えるという態勢にはなっていなかったらしい。そこでアル・シーシは、軍の最高評議会の25人のメンバーを入れ替えたり、自分の側近であるヘガジーを、軍諜報機関のトップに据えたりして、権力基盤の強化に努めてきた。ヘガジーの娘はアル・シーシの息子と結婚しているという仲だ。

こうしてアル・シーシは、軍部内を固め、権力基盤を盤石なものにしたうえで、大統領に就任する見込みとなった。しかし、彼にはまだ、解決しなければならない課題がいくつもある。

まず、ムスリム勢力との関係だ。暫定政権は、ムスリム同胞団への弾圧を強め、先日は500名以上に死刑判決を言い渡した。このままでは、ムスリム勢力とアル・シーシを支持する勢力との間の溝はますます深くなり、エジプト社会は深刻な分断を抱えたままと言うことになる。そうした分断を抱えたままのアル・シーシの政権は、血の弾圧をこれからも続けなければならないだろう。

もう一つは、深刻な経済情勢だ。いまやエジプトの経済状況はギリシャ以下だといわれる。貧困が蔓延する一方、経済成長もマイナスを続けている。こうした状況が改善されなければ、国民大多数の不満がアル・シーシに向く可能性もある。今のところ国民の多くは、秩序さえ回復されれば、経済状況も上向くと信じているが、それにはエジプトが国際社会の一員として認知されることが前提だ。しかし、アル・シーシが強権的な姿勢を取り続け、ムスリム勢力に血の弾圧を繰り返すようなことを続ければ、エジプトは国際社会から孤立する危険を背負うだろう。

国際社会から孤立しながら、軍部や支持基盤のサークルの利益ばかり優先するというのは、いまの北朝鮮やシリアがやっていることだ。北朝鮮やシリアも、体制批判者を絶滅しながら、体制の維持だけを考えて行動している。その北朝鮮の金正恩やシリアのアサドに、アル・シーシが似て来るという事態も、考えられないではない。独裁者というものは相似るものなのだ。(イラストは Economist から)

(参考)Egypt's probable president Pretending to be a civilian ECONOMIST





コメントする

アーカイブ