伊勢物語絵巻七段(かへる浪)

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むかし、をとこありけり。京にありわびて、あづまにいきけるに、伊勢、尾張のあはひの海づらをゆくに、浪のいと白くたつを見て、
  いとゞしく過ぎゆく方の恋ひしきにうらやましくもかへる浪かな
となむよめりける
(文の現代語訳)
昔、男があった。京にいづらくなって、東国にいったが、伊勢と尾張の境の海岸を行くと、浪がたいへん白く立つのを見て、
  ますます過ぎ去っていく京のことが恋しく思われるところに、うらやましくも、浪がもときた方へと戻っていくことよ
と、詠んだ次第であった。

(文の解説)
●ありわびて:いづらくなって、●あはひ:間、境、●海づら:海岸、●いとどしく:いっそう、ますます積もるさま、●過ぎゆく方:過ぎ去った方向、場所とともに時間のことも重ねてイメージされる

(絵の解説)
絵は男の一行が海づらを行く場面。馬に乗っているのが主人公の男(業平)だろう。一行は、ここでは総勢で5人ということになっている。たいした根拠はない。他の段では、8人だったり9人だったりもする。

(付記)
東下りの話の部分の冒頭となる段、この後15段まで、武蔵や陸奥でのエピソードが続く。







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