伊勢物語絵巻八段(浅間の嶽)

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むかし、をとこありけり。京や住みうかりけむ、あづまのかたにゆきて、住み所もとむとて、友とする人ひとりふたりして行きけり。信濃の国浅間の嶽にけぶりの立つを見て、  
  信濃なる浅間の嶽にたつ煙をちこち人の見やはとがめぬ

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(文の現代語訳)
昔、男があった。京が住みにくかったのだろうか、東国の方へいって、住むところを探そうとして、一人二人の友人とともに出かけて行った。信濃の国浅間山に煙の立つのを見て、
  信濃の国浅間山に煙が立つのを、遠くや近くの人が見咎めないことがあろうか

(文の解説)
●京や住みうかりけむ:京が住みにくかったのだろうか、「や」は疑問の助詞、「けむ」は推量の助詞、●友とする人:友人のこと、●見やはとがめぬ:反語表現、見咎めないことがあろうか

(絵の解説)
上の絵は、一行が立ち止って浅間山を眺めているところだろう。彼らの視線の先にあるのが、二枚目に描かれている山である。なお、本文では、一行はせいぜい三人ということになっているのに、この絵の中には、8人が描かれている。もっとも、そのうちの馬に乗っている三人だけが数に入る人物であり、残りの者は従者としてものの数に入らない、と見なすこともできないわけではない。

(付記)
七段の続きとすると、伊勢尾張の国境から更に進んで、浅間山が見えるところまで来たということになる。だが、一行は東海道を進んでいるはずで、そこから信濃の国の浅間山が見えるというのは不自然だともいえる。






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