(伊勢物語絵巻、第九段)
この絵は、伊勢物語第九段「東下り」の場面を描いたものである。東に下る男の一行が駿河の国に入り、富士の嶺を目の前に見るところだ。右手に男の一行が描かれている。馬に乗っているのは身分の高い男たち、その真ん中にいるのが主人公の業平なのだろう。徒歩姿の従者たちは、色が剥落している部分が多い。
左手に描かれているのが富士山。五月のつごもり、つまり夏だというのに、頂にはまだ雪が積もっている。その様子が塩釜を思わせるといって、一行は感心するのだ。その富士山のふもとに、弓を抱えた男たちが描かれているが、これは原作にはないところ。
(伊勢物語絵巻、第一段)
この絵は、第一段に出てくる女はらからを描いたもの。吹き抜き屋台の手法を用いて、屋敷内の部屋の一角でくつろぐ女たちの姿がなまめかしく描かれている。原作にも「いとなまめいたる女はらから」とある。
(伊勢物語絵巻、第五段)
これは、第五段の内容をそのまま絵にしたもの。男が、築地のやぶれより女の邸に入ろうとすると、そこには見張りの男たちがいて、眼を光らせている。そこで男は、「人知れぬわが通ひ路の関守はよひよひごとにうちも寝ななん」といって嘆くのだ。その男が目指している女は、左手の屋敷内の一角でうち臥せっている。
(伊勢物語絵巻、第十四段)
これは第十四段に対応するもの。女と一夜を過ごした男が帰っていくところを描いている。女にしてみれば、もっと長く男と一緒にいたかったものを、鶏が早く泣きすぎたせいで、こんなことになってしまった。そこで女は、「夜も明けばきつにはめなでくたかけのまだきに鳴きてせなをやりつる」といって、残念がるわけである。この絵は、そんな男女のやりとりを描いているもののようである。
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