むかし、をとこ、臥して思ひ、起きて思ひ、思ひあまりて、
わが袖は草の庵にあらねども暮るれば露のやどりなりけり
(文の現代語訳)
昔、ある男が、寝ては思い、起きては思い、(そのあまりに)思い余って歌うには、
わが袖は草を葺いて作った小屋ではないのだが、暮れたあとでは露の宿となってしまうのです(涙でぬれてしまうのです)
(文の解説)
●草の庵:草で葺いた粗末な小屋、●露のやどり:草は露のやどるところゆえ、自分の袖がぬれることを、このように言った、
(絵の解説)
男が臥したり起きたりしながら物思いに沈んでいるさまを描いているのだろう。
(付記)
わが袖が涙でぬれるという単純なことを、草の庵とかそれに宿る露を持ち出して、婉曲に表現した歌。誰かに贈った歌ともとれるし、独白ともとれる。
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