凱風快晴:北斎富嶽三十六景

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「凱風快晴」は「神奈川沖浪裏」とともに北斎の最高傑作といわれており、日本人に最も愛されている作品である。というのも、日本人が愛してやまない富士を、単純な構図をとおして、すっきりとしかも優雅に描き出しているからであろう。

この絵は「赤富士」とも呼ばれるが、それは赤く染まった富士を描いていることから来る。富士が赤く染まるのは、実際に起る現象で、地元の人々はそんな富士を古来「赤富士」と呼んで来たそうである。北斎はそんな言い伝えを意識しながら、赤富士の美しさを表現したのだろうと思う。

富士が赤く染まる赤富士の現象は、夏の早朝に起りやすいという。それも甲州側から見られるそうだ。甲州側からだと、朝日を逆光に浴びた富士が赤く染まって見えるのだという。それには、富士の山肌がもともと赤褐色だという事情も加わっているようだ。世界中の山で、こんなに赤く染まる山は他にはないらしい。

富士の上部が赤く染まっているのに対して、麓に近い方は暗緑色で描かれている。この両者の境が森林限界になっているわけだ。北斎は、その森林の様子を、木を一本一本丁寧に書き加えることで表現している。

題名にある凱風とは、初夏に吹く南寄りのそよ風だ。だからこの題名は、初夏の頃の快晴に恵まれた富士の姿ということになるが、快晴だと歌っているにかかわらず、空は多くの雲に覆われている。この雲は巻積雲といわれる高層の雲で、続にうろこ雲とかいわし雲とか呼ばれるものだ。高層で生じた雲が、上空の強い風のためにちぎれてできる現象とされる。こうした雲が生じると、台風が接する徴だと受け取られた。








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