東都浅草本願寺、常州牛堀:北斎富嶽三十六景

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(東都浅草本願寺)

浅草の東本願寺の巨大な屋根を前景として富士を遠景に描き、その両者が相似形をなしていることで、画面に微妙な安定感をもたらしている。そして、右手に材木を組んだ巨大な構築物を、その構築物と本願寺の屋根の間に空中を飛びまわる凧を配することで、画面全体を更に一層引き締める。この絵には、北斎の構図への拘りが強く見て取れる。

屋根の上には五人の鳶が働いているが、これらの人物像と屋根のバランスがいかにもありえない。人物を小人のように描くことで、建物の巨大さを強調する北斎のたくらみが見て取れる。

左手の構造物は、一見火の見櫓のようだが、よく見ると半鐘を載せる足場がなかったりして、そうでもなさそうだ。これも、構図をとるための北斎のトリックなのかもしれない。

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(常州牛堀)

常州牛堀は、茨城県潮来の水郷地帯にある水路である。その水路に浮かんだ苫船を前景にして富士山の優雅な姿が描かれている。構図的には非常に単純なだけに、見たところのインパクトは大きい。

苫船は画面の対角線に沿って大きく配置されている。苫船というのは屋根のついた船で、人がそこで生活するように作られている。この絵の中でも、男が釜を洗う様子など、人の生活の息吹を感じさせるような工夫がなされている。

遠景に浮かび上がった富士は、大きさが異常にでかいばかりでなく、画面の他の部分とマッチしていない印象を与える。遠景に浮かんでいるというよりは、水路の上に直接浮かんでいるように見えるし、麓には家屋が描きこまれている。

こんなところから、この絵は、牛堀の眺めと富士の姿とを無理にくっつけあわせたような印象を与える。








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