
セザンヌは1890年代に入ると、静物画のモチーフの一つとして、模様入りのテーブルクロスを入れるようになる。それ以前には、白いナプキンが用いられていたわけだが、白いナプキンが、果物の効果を盛り上げるための脇役として用いられていたとすれば、模様入りのテーブルクロスは、それ自体に絵画的な効果を盛り込んだものだ。
「砂糖入れ、梨、テーブルクロス(Sucrier, poires et tapis)」と題した1894年完成のこの絵では、テーブルクロスは左端に遠慮がちに置かれ、そんなに目立った印象は与えないが、それでも、テーブルの輪郭を曖昧にしたりする効果や、テーブルクロスの模様と襞との曖昧な関係による独特の効果をもたらしている。
背景は思い切って単純化している。壁の灰色は、さまざまな色をキャンバスの上で混ぜることで作ったものだ。同じ灰色でも、色彩にふくらみがあるように感じられるのは、この混色による効果だろう。
モチーフは、右下から左上に向かって配置され、画面に動きをもたらしている。砂糖入れと皿のホワイトをハイライトにして、果物の色彩は、赤、黄、緑を交互に配置し、色彩の面でも画面に動きを生じさせる工夫がなされている。
画面の動きという点では、斜めに置かれたテーブルの輪郭が、不思議な不安定感を通じて、見る物にある種の運動感のようなものを感じさせているように思える。だが、こういう構図は、あまり真似しないほうがよいかもしれない。
(1893-94、キャンバスに油彩、51×62cm、個人蔵)
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