核のゴミを外国に引き取ってもらう

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日本で反原発を主張する論拠の一つに、便所のないマンションをたてるようなものだという理屈がある。たしかにその通りで、原発から出る大量のゴミとも言うべきものの、適切で安全な処理を伴わなければ、危険なゴミが国内に充満して、それこそ糞詰まりの状態になるのは、子どもでも思い浮かぶことだ。そこで、いかにしてこのゴミの処分に道筋をつけるかが問題になるが、ここに面白い提案をする人がいる。オックスフォード大学で原子力が環境に及ぼす影響を研究しているカービー氏だ。氏はニューヨーク・タイムズに寄稿した小文の中で、日本は核のゴミを外国に引き取ってもらうのが、もっともよい解決策だと提案している( Japan's Plutonium Problem )。無論ただではない、相応の手数料を支払った上でのことだ。

核のゴミの中で一番問題なのは、ウラニウムを燃やしてできるプルトニウムだ。これは再処理技術が確立されさえすれば、ゴミどころか貴重な資源となるのであるが、いまのところその技術は開発されていないし、今後も開発が成功することはないと考えた方がよい。ところが日本政府は、この技術の開発にいまだに未練を持っていて、莫大な研究予算を投じている。そんな無駄なことに金を使うのなら、その金で以て、外国にプルトニウムの保管を委託したほうが安上がりで現実的だというのだ。

いま現在日本が抱えているプルトニウムの量は47トン。長崎型原爆6000個を作れる量だ。この47トンのうち20トンはイギリスで、16トンはフランスで仮保管してもらっている。残りの11トンは日本国内の原子力施設で保管している。英仏で保管してもらっているプルトニウムは、再処理したうえで日本に引き渡す契約になっているが、上述したように、再処理の見込みは全くない。そんなわけだから、この際発想を変えて、そのまま永久に保管してもらったらどうか、というのが氏の提案だ。日本国内で保管しているプルトニウムは、アメリカに保管してもらう契約を結べばよい。

こうした提案を日本がすれば、、あるいは相手国の市民の強い反発を食らうかもしれない。しかし、地震の多い日本で保管することは、非常にリスクが高い上に、そのリスクは世界で共有するようになる可能性が非常に強い。日本の核廃棄物問題は、日本一国のマターではなく、いまや地球全体にとっての問題なのだ。それ故、英仏米といった先進国が、そのリスクの軽減に相応の貢献をするのは十分に理由があることだ。そう氏は言うのだ。

これは日本の核のリスクを地球規模で軽減しようとする発想だが、これには二つの問題が潜んでいる。一つは、そのように世界中に迷惑をかけてまで日本が原発にこだわるのが倫理的に正しいことなのかという疑問があることだ。もう一つは、この提案に日本政府がどう答えるか、よく見えていないという点だ。日本政府が原発にこだわり続けるのは、エネルギー確保の為ばかりではない。原子力技術の温存という目的もある。その背景には、将来核兵器の開発を速やかに行えるよう、備えておきたいという目論見もあるようだ。その際には、プルトニウムは原爆の原材料になる。

一つ目の疑問については、氏は日本の核問題は世界共通のマターだということで答えている。二つ目の疑問については、氏は正面から答えていないのだが、おそらくは、日本の核問題が日本一国の問題にとどまらないと言うことを通じて、日本政府の思惑を国際的にコントロールする必要があると考えているのだろうと思われる。つまり、日本政府に勝手放題な真似はさせないぞ、というわけであろう。






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