ドナルド・トランプの口舌

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ドナルド・トランプの勢いがすごい。一時は泡沫候補と侮られていたが、いまやジェブ・ブッシュ以下の共和党の大統領候補者を抑えて、断然トップの勢いだ。その人気の大部分は彼の率直な発言にあると見られているが、その発言たるや、メキシコ人はみな強姦犯だとか、自分に批判的な女性アナウンサーはメンスでヒステリーになっていたなどと、とても紳士の言葉とは言えない下品なものだ。下品さには耐えられない筆者などは、どうせそのうち消え去るだろうくらいに考えて相手にしないことにしていたが、もしかしたら本当に共和党の大統領候補になるかもしれないと世間で真剣に言われだしてみると、そうも言っていられなくなった。今後は彼の発言をある程度フォローする必要があるだろう。

彼が強姦犯だと攻撃しているメキシコ人とは、インディオ系の人々だ。彼らは、トランプの祖先たる白人たちが殺戮したインディアンとは、いわば親戚関係にある。そのインディアンの殺戮者の子孫であるトランプが、自分の祖先のことを棚に上げて、メキシコ出身のインディオたちを強姦犯呼ばわりしているわけだ。語るに落ちるとは、こういうことを指す。

こんなメチャクチャな発言が一定の支持を得る背景には、アメリカ白人労働者の間で移民排斥の感情が高まっていることがあると見られる。近年の移民の大部分はメキシコから来たヒスパニック、つまりインディオの子孫たちだ。その人たちが、白人労働者の職を奪うばかりか、安い賃金で働くことで白人労働者の賃金を下げてもいる。つまりメキシコから来たインディオたちは、白人労働者にとっては災厄なのであり、その感情をトランプが、強姦という言葉で表現している、という構図らしいのだ。

同じ構図は西ヨーロッパ各国でも見られる。ドイツなどでは、東欧から来た出稼ぎ労働者のために、ドイツ人労働者が職を失ったり賃金の切り下げを受けたりしている。その恨みが移民排斥と言う形をとって爆発している。フランスのフロン・ナショナールなども、そうした排外感情に乗って伸びて来たものと思われる。

皮肉なことに、移民や出稼ぎの増加に見られる労働者の国際的な異動は、現在の欧米諸国が推進している新自由主義的経済政策のたまものである。新自由主義というのは、国民の福祉を犠牲にして、グローバル企業に無際限に金儲けさせようとするものだが、そうした考え方はトランプも共有している。そうした考え方に立てば、国外から安い労働力を移入させたり、安い労働力を求めて外国に投資するのは当然のことだ。その根本のところは、トランプといえども変えるつもりはないらしい。それはそのはずで、トランプほど金儲けに熱心な男はないからだ。その金儲けに熱心な男が、自分たちの金儲けに付随して外国人労働者の移入が進んでいるという実態に目をつぶり、彼らの排斥を叫んでばかりいるわけだ。





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