ゴッドファーザー(Godfather):フランシス・コッポラ

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フランシス・コッポラの映画「ゴッドファーザー」はアメリカばかりでなく世界中で大ヒットした。日本でもやはり大ヒットになった。公開から40年以上経ったいまでも、人気は衰えないという。この映画のなにが、それほど人々をひきつけるのか。

この映画が描いているのは、アメリカのギャング・マフィアの生態である。マフィアはアメリカの闇の世界を支配するものとして人々に恐れられていたが、その生態には秘密の部分が多すぎて、よくわからなかった。この映画は、マフィアの生態に詳しい作家による原作をもとに映画化されたとあって、マフィアの生態をなまなましく描き出している。そこが人々の関心を引きつけてヒットにつながったという側面は指摘できよう。

だが、ただのギャング映画なら、それほどブレイクすることもないはずだ。プラスアルファの部分が豊富にあって、それが人々の興味を掻き立てたということもあったと思う。そのプラスの部分とは、つまるところ人間的な暴力だ。暴力にはさまざまな形式があるが、この映画で描かれているのは、人間の最も根源的な行動としての暴力である。この映画の中の暴力は、人間なら誰にもわかるきわめて単純な暴力である。その単純さが、世界中の人々に訴えたのだろうと思われるのである。

この映画が公開されたのは1972年だが、その時代は、ベトナム戦争や人種暴動に象徴されるような60年代後半のいわば暴力の時代をくぐり抜けた後の反省の気分が充溢していた時代だった。そんな時代に、人間の暴力を正面から取り上げたものだから、余計に人々を内省的にしたのかもしれない。すくなくともアメリカについてはそうも指摘できるのではないか。

日本についていえば、この映画を見た多くの日本人は、日本のやくざ映画とはまったく違った暴力が描かれているのを見て、新鮮な気分になったのではないか。日本のやくざ社会は、義理と面子を重んじる社会であるし、ある程度人情にもろいところがある。だからそんな世界で展開される暴力には、ウェットで言い訳がましいところがある。ところがこの映画の中の暴力は、きわめてドライで、言い訳などいっさいしない。暴力には、それを行使する自然の勢いのようなものが関連していて、暴力を振るうものはその勢いに従って淡々と行動するのだ。その行動のスタイルはビジネスライクと言ってよい。

この映画の中の暴力の描写は、前例を見ないほどすさまじいものだ。戦争映画でもこれほどむき出しの暴力を描いたものはないといえるほどだ。暴力は、多くの場合攻撃を目的としてというよりは、自分の命を守ることを目的として行使される。相手をやらなければ、自分がやられるのだ。ホッブスが言うところの弱肉強食の狼の世界、それがマフィアの社会であるわけだ。そんなこともあってこの映画は、西欧人には非常にわかりやすいのだと思う。マフィアの暴力を描きながら、それを通じて人間社会の根源的なありようを示している、そんなふうに感じさせるからだ。

映画はマーロン・ブランド演じるマフィアのボス、ドン・コルレオーネの娘の結婚式の場面から始まる。にぎやかなパーティが繰り広げられる一方で、コルレオーネのところへは様々な陳情が寄せられる。恨みを晴らしてほしいとか、自分のプロモーションに手を貸してほしいとか、そんな願い事ばかりだ。依頼に来る人間たちは多くの場合普通の民間人だ。日本ならこういう光景は思い浮かばない。やくざの世界は一応かたぎの世界とは別のところで成り立っているという了解があるからだ。だが、アメリカのマフィアは市民生活の中にまで浸透している、という事情がこの映画からは伝わってくる。

映画の前半はそのドン・コルレオーネを中心に展開してゆくが、コルレオーネが敵から銃で襲われた後は息子たちの動きに比重が移ってゆき、後半のほとんどは末子のマイケル(アル・パチーノ)を中心に展開する。マイケルは父親の仇をうったあと、シチリアに潜伏するのだが、やがて父親に呼び戻されてその後継者としてのし上がってくる。その過程で、父親も顔負けの暴力を振るうようになる。その暴力は身内にも向けられる。冒頭の結婚式に出てきた妹の亭主を、手下に命じて殺してしまうのだ。それはこの亭主が、自分の兄弟を敵に売ったからである。こんなところにも、この映画の中の暴力の論理のすさまじさが反映されている。

マイケルがこんなことまでするのは、マフィアの人間関係がドライなためだというふうに伝わってくる。自分の身内を信じられないくらいだから、マフィアにとっては、この世に信じられるものなど存在しない。信じられるのは自分の暴力だけなのである。真実は暴力によって啓示される、というわけである。

というわけでこの映画は、暴力の黙示録とでもいうべきだろうか。







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