フッチが立ち去った後に、その場には他の二人の亡者が残ったが、彼らに今度はトカゲと蛇が襲い掛かった。とりわけその一人に襲い掛かった蛇は、相手に絡みつき、フッチと同じように変身させてしまう。この変身させられたものは、ブオーゾと言った。
三伏の大なる笞の下に蜥蜴籬を交へ、路を越ゆれば電光とみゆることあり
色青を帶びて黒くさながら胡椒の粒《つぶ》に似たる一の小蛇の怒りにもえつゝ殘る二者の腹をめざして來れるさままたかくの如くなりき
この蛇そのひとりの、人はじめて滋養をうくる處を刺し、のち身を延ばしてその前にたふれぬ
刺されし者これを見れども何をもいはず、睡りか熱に襲はれしごとく足をふみしめて欠をなせり
彼は蛇を蛇は彼を見ぬ、彼は傷より此は口よりはげしく烟を吐き、烟あひまじれり
ルカーノは今より默して幸なきサベルロとナッシディオのことを語らず、心をとめてわがこゝに説きいづる事をきくべし
オヴィディオもまた默してカードモとアレツーザの事をかたるなかれ、かれ男を蛇に女を泉に變らせ、之を詩となすともわれ羨まじ
そは彼、二つの自然をあひむかひて變らしめ兩者の形あひ待ちてその質を替ふるにいたれることなければなり
さて彼等の相應ぜること下の如し、蛇はその尾を割きて叉とし、傷を負へる者は足を寄せたり
脛は脛と股は股と固く着き、そのあはせめ、みるまにみゆべき跡をとゞめず
われたる尾は他の失へる形をとりて膚軟らかく、他のはだへはこはばれり
我また二つの腕腋下に入り、此等の縮むにつれて獸の短き二の足伸びゆくをみたり
また二の後足は縒れて人の隱すものとなり、幸なき者のは二にわかれぬ
烟、新なる色をもて彼をも此をも蔽ひ、これに毛を生えしめ、かれの毛をうばふあひだに
此立ち彼倒る、されどなほ妄執の光を逸らさず、その下にておのおの顏を變へたり(地獄篇第二十五曲から 山川丙三郎訳)
プオーゾに襲い掛かる蛇。それをみている左手の裸の男がプッチョである。
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