「鳶烏図」と題した双幅一対のうちの鳶を描いたもの。空中に突き出た枯れ枝に一羽の鳶がとまり、烈しい風雨に耐えているように見えるこの図は、去来の句「鳶の羽も刷(かいつくろ)ひぬ初時雨」をイメージにしたものだと指摘されている。
大胆な技法がいくつも試みられている。たっぷり水を含んだ筆を叩きつけるようにして薄墨で明暗を表現し、墨を含ませた筆をこすり付けるようにしてフォルムを表現するなどである。一部には、スプラッタリングが施されている。筆を振ることで、筆に含ませた墨を紙のうえに点々とあらわす技法である。
これは鳶の部分を拡大したもの。地の部分がこすれたように見えるのは、乾いた筆でさっと墨を塗った効果だ。鳶の羽には、墨で描いた上に淡彩を施している。(133.5×54.5cm 紙本墨画淡彩 双幅)
壺斎様
<「鳶の羽も刷(かいつくろ)ひぬ初時雨」をイメージにしたものだと指摘されている。>
初時雨は初冬の季語、青空なのに急に時雨れる、風も吹いて枯れ木が風にしなっている、輝くような光がさしている。初時雨はこのような気ままな天気らしい。墨と淡彩の絵なのに、なぜか白がまばゆくばかりに美しい。
一羽の鳶は耐えているのか、いや超然としている。蕪村はこうありたいとおもっていたのだろうか。
2016/7/26 服部