マティス、色彩の魔術

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アンリ・マティス(Henri Matisse)は、ピカソと並んで20世紀を代表する画家で、この二人は20世紀の二大アーティストと言ってよい。20世紀は芸術の世紀と言われるほどで、なかでも絵画のようなヴィジュアル・アートが全盛を誇ったのだが、林立する高峰のなかでも、マティスとピカソは群を抜いて聳える双璧といってよかった。

ピカソがフォルムの画家とすれば、マティスは色彩の画家と言える。この二人はほぼ同じ頃に、フォルムの革命といわれるキュービズムと、色彩の革命というべきフォーヴィズムを主導した。その後二人ともそれぞれ独自の道を開発し、20世紀の巨人というに相応しい相貌を身につけていった。

絵画はいうまでもなくフォルムと色彩を二つながら要素としているので、そのどちらか一方を軽く扱うわけには無論いかないのであるが、ピカソの場合にはフォルムを極限まで展開させ、その盛りたて役として色彩を扱った。色彩もまたフォルムの一部である、というのがピカソの芸術上の哲学である。

これに対してマティスは、色彩にとことん拘りつつ、フォルムには色彩を盛りたてる役割を付与した。ピカソとは正反対なわけで、マティスにとってフォルムは色彩の一部なのである。

マティスの絵には、遠近法とか色彩の調和とか、陰影とか三角法構図とかいった、ヨーロッパ絵画の伝統的な技法はほとんど認められない。彼はそうした伝統から大きく逸脱した全く新しい芸術を目指したからだ。

その結果彼が行き着いたのは、絵画もまた装飾の一部だという信念だった。絵画は単に見られるものではなく、装飾として楽しむべきものとなった。絵画に装飾としての役割を負わせた例は、ステンドグラスや工芸品にもあったわけで、別に目新しい考え方ではない。マティスはそうした考え方に、正統な位置づけを与えただけだ、ともいえる。

ここでは、そんなマティスの生涯の画業から、世に名高い作品を選んで鑑賞してみたい。数ある作品のなかからの選別の基準は、装飾性というものである。それも人体をモチーフとしながら、人体自体が装飾の一部となっているような、作品たちだ。






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