画家の家族(La famille du peintre):マティス、色彩の魔術

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「画家の家族(La famille du peintre)」は1911年に、「赤のアトリエ」を含むアトリエ四部作の一つとして描かれた。他の三作と比較して、この絵にはかなり違ったところがある。全体に装飾的だという印象は変らないが、ほかの三作が単純な色彩配置になっているのに、これはマニアックなほどに微細なタッチで描かれている。そういう点で、この時期のマティスの絵にしては、ユニークなものである。

マティス自身が語っているように、この絵の眼目はアトリエを飾る装飾的なパターンにある。床の上の絨毯の模様はもとより、壁紙からソファ、暖炉にいたるまで、モチーフのすべてに花柄を主体にした模様が散りばめられている。卓上の将棋盤の格子柄まで、ゲームの為の陣地の表現というよりは、ある種の装飾模様といえるようである。そればかりではない、マティスは、四人の人物もまた装飾としての意味を持っていると言っている。つまりこの絵は壮大な装飾パターンを表現したものなのだ。

全体が装飾パターンなのだから、構図は現実の再現である必要はない。実際この絵には遠近感もなければ色彩の調和への考慮もない。色彩は装飾に相応しく賑々しくあればたりるといった具合に、色のそれぞれは、ほかの色との関係を無視して自分だけを主張しているかのようだ。それでいて破綻が生じないのは、マティスの腕の見せ所だろう。

モデルになっているのは、マティスの二人の息子(ジャンとピエール)、娘のマルグリット、妻アメリーだ。黒いドレスを着ているのがアメリーと思われる。マティスは、若いころは妻の肖像を描くことはあったが、子どもを含めた家族をこのような具合に描くことは珍しかった。ポーズをとらされた家族としては、自分たちとあまり似ていないので、なにもわざわが自分たちがモデルになる必要はないと思っただろう。なにせ一家の主人たるマティスには、家族を養うほどの甲斐性とモデルを雇うほどの余裕はあったはずだから。

(1911年 キャンバスに油彩 143×194cm ペテルブルグ、エルミタージュ美術館)






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