トランポノミクスとグローバリゼーション

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トランプが大統領就任の当日に、かねての公約だったTPPからの離脱とNAFTAの再交渉を正式に表明した。TPPもNAFTAも自由貿易の枠組として、アメリカが主導して作ってきたものだ。それは、自由貿易がアメリカ資本にとっての活躍のチャンスを拡大するという信念に基づいていたわけだが、自由貿易にはアメリカにとって不都合なこともある、とトランプが判断して、今回のような事態になったわけだ。どんな不都合があるのか。それはトランプ自身が自分の行為を通じて語って見せた。NAFTAの枠組を利用した自動車資本が、メキシコで安く車を作り、それをアメリカに輸出する。そのおかげでアメリカは雇用を失う一方、メキシコなどの外国に一方的に利用される、これはアンフェアだ、そういう不都合をトランプは訴えたわけだ。それ故、TPPとかNAFTAを見直すのは、アメリカの雇用や産業の活性化にとって当然のことなのだ、と言いたいわけであろう。

近年における自由貿易の拡大は、グローバリゼーションの一環である。グローバリゼーションというのは、資本や人の移動の国際化を意味するが、その結果生まれてくるのは、所謂勝組と負組の分布が、国境を越えて国際的な規模でおこることだ。アメリカのような強国でも、グローバリゼーションの負組が出る一方、後進国でも勝組が出る。要するに富の分布が国境を無視して進んでゆく事態が生まれるわけだ。こういう状態では、アメリカのような大国でも、貧困層の発生が構造的なものとなる。そのあおりを食っているのが、膨大な白人労働者層だ。この層が、今回トランプを勝たした原動力となったわけだ。

グローバリゼーションが始まる前は、経済は基本的に国境を前提として動いてきた。ある国における経済の発展は、その国の富を増やし、国民全体が何らかの形でその分配に与ることができた。そういう事態のもとでは、国民経済の拡大がそのまま国民の福利の拡大につながった。ところがグローバリゼーションは、国境の壁をとりはらうことで、国民経済と国民の福利の関係を破壊した。資本が国境を越えて移動するという事態が生じたからだ。グローバル経済においては、資本に国境はない。もっとも有利な生産拠点で生産したものを、もっとも有利に売れる国に輸出する、そういう構図が支配的になる。

経済学の教科書のなかには、ある国の資本が外国で活動しても、その恩恵は何らかの形で国民経済の発展に寄与すると説明しているものがあるが、トランプは、そんなのはうそだ、資本が外国に流れてゆくことは、その国にとっては破滅的な効果をもたらす、そう言っているわけだが、それには一定の根拠があるとみるべきだろう。フォードがメキシコで生産して、それをアメリカに輸出したとする。そうすることでフォードは儲かるかも知れぬが、アメリカ人がそのおこぼれを頂戴できるという保証はない。フォードが設けた金は、税金という形でアメリカ政府に入ってくるわけではなく、株の配当という形で、世界中の投資家たちをうるおすだけの話だ。ところがフォードがアメリカ国内で生産・販売すれば、その利益がアメリカに還元される。昔なら当然であったそういうメカニズムを、もう一度取り戻す、そうすることでアメリカの国民経済を拡大させる、というのがトランプの戦略であって、それ自体おかしなことではない。というより、非常に理にかなった考え方だ。

一方、トランプのアメリカ第一主義が保護貿易主義の動きを世界中に拡大させれば、その結果として貿易の縮小を招き、世界経済が停滞するという懸念にも一理はある。そうした懸念は、各国が互いに自国の利益のみを見て、狭い了見に陥ることからおきる。国境の壁を維持しながら、つまり経済を国民経済の枠組にとどめながら、なおかつ国家間の貿易や資本の移動をどのようにコントロールするか、そうした課題をクリアできれば国民経済とグローバル経済とを矛盾なく共存させられるかもしれない。

なお、トランプには国内の景気を拡大させるための処方箋もある。それをアベノミクスにならってトランポノミクスという向きもある。単純化して言えば、大幅な減税をする一方で、巨額な公共投資を行い、それらを通じて景気を刺激しようというものだ。かつてレーガンが行った経済政策(レーガノミクスと呼ばれる)に非常に近いといってよい。この政策はたしかに景気浮揚効果を持つが、巨額の財政赤字をもたらす。実際レーガン政権は巨大な政府債務を遺産として残したのだった。その債務は、後続するクリントン時代に、折からの好景気に支えられて返済することが出来た。ところがトランプの場合、巨額な政府債務が後の時代に清算できるとは保証の限りではない。トランプは、移民の排斥を強調しているが、移民の排斥によって人口ボーナスがなくなれば、アメリカの経済には発展の浮力がなくなり、したがって巨額な政府債務を返済する見通しもなくなるわけだ。






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