両国でちゃんこ鍋を食う

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山子夫妻、落、松の諸子と遅ればせの新年会を催した。場所は両国のちゃんこ屋川崎。両国に数多いちゃんこ屋の中でも、最も古い店だ。開業は昭和十二年だという。歴史が古いばかりでなく、建物もかなり古い。隅田川べりの路地に面して立っているが、外観も内装もなかなかの渋さを感じさせる。

このメンバーが揃って飲むのは昨年の新年会以来一年ぶりのことというので、みな久しぶりの再会を祝って乾杯した。眼の前にはちゃんこの鍋がドンと置かれている。そこへ店員が五人分の鶏肉と野菜やら焼き豆腐やらはるさめやらをどかっとぶち込む。そのぶち込み方が威勢のよさを感じさせる。ちゃんこというのは、育ち盛りの相撲取りが箸を争って食いあうものだから、見てくれより栄養が肝心だというわけだろう。ここのちゃんこは、栄養たっぷりなほか、味もマアマアだった。松子などはすっかり気に入って、そのうち細君をつれて来ようなどと言う。

鍋のほかには、鳥の串焼きが出て来た。一本の串に、砂肝やら肝臓やら心臓やらをつなげて刺してこんがりと焼きあげている。これもなかなかうまい。そのほか鳥わさとか鶏肉のマヨネーズあえとか、この店はどうも鳥を売り物にしているようだ。

ビールを飲み終わると、この店特製の樽酒を頼んだ。升からこぼれ出るくらいになみなみと注ぎ、塩を添えている。これを升の端に載せて、酒と一緒に飲むと、なかなか粋な風味が楽しめる。

ところで、最近はすっかりトランプに話題をさらわれてしまったようだね、H(小生のこと)のブログもトランプの記事で賑やかじゃないか、山子がそう言いながら筆者のブログの記事の一部を印刷したものを持ち出した。これはなかなか面白かったよ、と言いながら。その記事は「トランプはアメリカ政界のゲンゴロー」と題したもので、ジョージ・ウィルの文章を紹介しながら、トランプのハチャメチャぶりの一端を紹介したものだ。

それに触れながら山子は、こんなめちゃくちゃな人間がアメリカの大統領になったというのは驚きだが、そんなに長持ちしないのじゃないかな。精々長くても四年だろう、と言うので、いや必ずしもそうとは言えない。八年間やる可能性は十分にある。そう小生が言うと、なんだあんたは、トランプを評価しているのかね、と言い返されたので、別に評価をしているわけではなく、冷静に分析すればそういう可能性もありうると言っているのさ、と答えた次第だ。

いずれにしても、トランプがこんなにめちゃくちゃなのは、よく物事を考えないからだという指摘は当たっているよ、と山子が言うので、ライト・ミルズがかつて「パワー・エリート」の中で指摘したとおり、アメリカのパワー・エリートは殆ど本を読まない。本を読んでいるひまがあったら、金儲けを追求した方がましだと思っているからだ。トランプも同様で、大人になって以来一冊も本を読んだことがないという噂だ。これはアメリカの伝統の最たるもので、トランプはそれを地で行っている。だからトランプへのアメリカ人の支持・同意には根深いものがあるのだよ、と小生は俄分析をして見せた次第だ。

ところで、松子は相変わらず細君と一緒に旅行三昧だそうだ。随分金巡りがいいのだね、と言ったところ、株への投資がうまくいって、ぼろもうけをしたのだそうだ。あぶく銭はすぐに使ってしまうのがよろしかろうというので、細君をベンツに乗せて日本中を遊び歩いているということらしい。そのベンツにしてからが、株でもうけた金で買ったのだよ、そう言いながら松子は数理経済学を標榜した一冊の本を取りだし、これを読めばみなも金儲け上手になれるよ、と請け合った。ふむ、そんなものかね。

落子のほうは、日頃苦労をかけどおしの細君をねぎらうため、これから一緒に広島方面に旅行すると言う。広島に行ったらついでに、竹原とか言ったと思うが、そこに足を延ばすとよい。いつか我々の行った信州の海野宿に似て、古い街並みが保存されているところだから、女性には喜ばれると思うよ。

小生について言えば、来月にも奈良へ一人旅をして、長谷寺や当麻寺を訪れるほか、吉野にも足を延ばしたいと思う、そう言ったところが、細君は連れて行かないのかね、とみなが聞くので、家人は家人で別のグループと旅行するのを好み、亭主と一緒に旅するのをあまり好まないのさ、と答える。旅先でまで亭主の面倒を見させられるのは御免だと思っているらしい。

ところでこのメンバーでもどこか温泉に行きたいね、と言ったところが、昨年行った越中の小川温泉はよかったね、ああいうところでのんびり湯につかりたいものだ、そうみな口を揃えて言う。そこでどこか秘湯のようなものを見つけて、皆で浸かりにゆこうじゃないかという話に発展し、計画の詳細は別途詰めようということになった。

こんなわけで今宵も、他愛のない話に興じながら、からっ風で冷え切っていた体を、ちゃんこと升酒で暖めたところだ。





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