ベトナム戦争の教訓:ケン・バーンズのドキュメンタリー映画

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アメリカの歴史をテーマに数々のドキュメンタリー映画を作成してきたケン・バーンズが、ベトナム戦争をテーマにした長編のドキュメンタリー映画「ベトナム」を制作した。その公開に先立って、試写会がワシントンのケネディ・センター・オペラ・ハウスで催され、ジョン・マケインやジョン・ケリーといった、ベトナム・ヴェテランの政治家も参加した。

発言の機会を与えられたジョン・マケインを含め、ベトナム戦争についての参加者のほぼ一致した見解は、ベトナム戦争は間違った戦争だったというものだった。その最大の原因は、時の政権が、国民に対して嘘をつきとおし、国民が戦争の真実の姿を知らされないままに、ずるずると拡大していったことだ。その結果、58.000人のもアメリカの若者が、無駄死を強いられた。参加者のほとんどはそう言って、政府による情報操作が、いかにアメリカの国益を損なったかを強調した。

しかし気になるのは、彼らの批判が、政府による情報操作によって、戦争の真の姿が覆い隠され、その結果多くのアメリカの若者が死んだということを強調する一方、ベトナム人が受けた被害については、全くこれを無視していることだ。アメリカの若者の命に比べれば、ベトナム人の命など、犬の命以下だと言いたいわけだはなかろうが、それにしても、あまりにも片手落ちだと言わねばなるまい。

ベトナム戦争とはいったい何だったのか。その根本の要因について、アメリカ人はいまだに向き合おうとしていないのではないか。どうも、そんなふうに伝わってくる。こうした態度は、西部開拓時代における白人至上主義を引きずっていることの現れではないか。西部開拓時代のアメリカの歴史は、白人によるインディアン殲滅の歴史だ。騎兵隊という軍事組織は、インディアン殲滅を目的に作られたものだ。今の米軍は、その騎兵隊の子孫にあたる。

かつての騎兵隊が、インディアンを殲滅するのは正義にかなっていると信じたように、現代のアメリカ軍と、その背後にいるアメリカの白人社会は、ベトナム人は基本的にはインディアンと同じものであり、それを殺戮すること自体は、正義に反していないと思っているのではないか。でなければ、ベトナム戦争で膨大な数のベトナム人を殺したことについては気にせずに、アメリカの人的損失ばかり云々するような態度は生まれてこないだろう。





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昨夜、第6話が放映されたところです。
1話から続けて見ていますがこの記事とは全く逆の印象を受けました。
今までアメリカでベトナム戦争についてのドキュメンタリーや映画が数々制作されましたが、今回のバーンズ氏の作品では多数の北ベトナム、南ベトナムのオフィシャルや兵士、または一般市民のインタビューが織り込まれているし多くのヒューマンストーリーも語られています。
決してアメリカのエゴ、またその原因を否定したり無視した作品とは感じられません。 現代のアメリカ人がベトナム戦争をどのように感じているか、多くの人達は二度と起こるべき事ではないと感じていると思います。そして政府に対する疑惑もショックだったでしょう。
インディアンを殺した騎兵隊の子孫も今軍隊に存在するかもしれません、が、アメリカ人の愛国精神は日本のそれとは比べものにならないと思いますよ。だから国のために戦った若者も大勢いたでしょうし、またドラフト制度で刈りだされた気の毒な若者もいました。
このドキュメンタリーが終わった時に多くのアメリカ人が今まで知られていなかった事実を学び戦争に対して違った観点から見る事ができるようになるというのが私の希望です。
Mogie Crocker さんのお母様と妹さんの悲しみをあの表情から感じ取れましたか?ベトナムで家族をなくした兵士の話もありましたね、誰も二度と思い出したくない出来事をくつがえして話す事はしたくないはずです。そしてもう一つ、ベトナム戦争で犠牲になった人は白人ばかりではありませんよ。海兵隊員は誰かが怪我をすると必ず助けに行った、置き去りには絶対にしなかった。それ故更に多くの犠牲者も出たと言います。
誰もが賛成できる作品などないわけですが、これは決してアメリカ主義のものではないと思ったので意見させていただきました。

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