「メーダ・プリマヴェージの肖像(Boldnis Mäda Primavesi)」は、「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」と並んで、クリムトの前期から後期への過渡期を代表する作品だ。前期の特徴である「黄金様式」から、後期の特徴であるやわらかい色使いの装飾画への移行を読み取ることができる。
この絵も、「アデーレ」同様、正面を向いて立っている女性の全身像が描かれている。クリムトの他の女性たち同様、この女性も十頭身を越えるプロポーションであり、身体自身が装飾的な感じを与える。そのことを美術批評家のアレサンドラ・コミニは、「モデルの肢体各部が装飾となり、装飾が肢体各部となる」と評した。
全体的に暖色を主体とし、ふんわりと暖かい雰囲気をかもし出している。ところどころ配された装飾的なイメージは、黄金様式における幾何学的パターンから花柄のような具象的なものへと変っている。
モデルのメーダ・プリマヴェージは、オーストリアの実業家オットー・プリマヴェージの次女。オットーは分離派芸術運動のパトロンとして資財を投じたために破産したといわれる。妻のオイゲニアと次女のメーダのために肖像画を描くようクリムトに依頼した。これはその一枚である。
モデルの上半身の部分を拡大したもの。アデーレがどこかうつろな表情をしていたのに対して、この少女はきりりとした目で、意思の強さを感じさせる。髪飾りと胸の花飾りとが少女らしさを演出している。
(1912年 カンヴァスに油彩 150×110.5cm ニューヨーク メトロポリタン美術館)
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