アラバマの田舎者でも恥は知っている

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米上院のアラバマにおける補欠選挙で、民主党の候補者ダグ・ジョーンズが共和党のロイ・ムーアを破り、民主党に四半世紀ぶりに上院の議席をもたらした。アラバマと言えば、先の大統領選において、トランプがヒラリーに28ポイントの差を付け、圧倒的な勝利を収めた州であり、アメリカの中でも最も共和党の基盤が強いと言われる。そこで民主党が勝ったことの意味は大きい。というより共和党の負けた意味は大きいと言うべきだろう。というのもこの選挙は、共和党のオウンゴールのようなものだったからだ。

ロイ・ムーアは、予備選を戦って生き残った候補だが、すでにその時点から女性に対する過去のセクハラ疑惑が持ち上がっていた。このことに当人のムーアはほとんど反応らしいものを示さず、共和党のエスタブリッシュメントも大目に見た。アラバマではセクハラ疑惑が選挙の致命傷になることはないと、タカをくくったからだろう。アラバマの選挙民は、セクハラ疑惑などと言う枝葉末節の問題よりも、もっと現実のことがらで判断するはずだ、と踏んだのだと思う。

ロイ・ムーアに対しては、ドナルド・トランプも全面的に支援した。トランプも、民主党がアラバマの議席を奪うことに比べれば、ロイ・ムーアのセックススキャンダルなど問題にならないといったロジックを弄して、アラバマの有権者にムーアへの投票を呼びかけた。アラバマの男たちに向っては、ロイはあんたと同じようなことをしただけだと呼びかけ、女性たちに向かっては、あんたの亭主や倅だって同じようなことをしている。あんたはそれを許したではないか、ならばロイにも寛大になり、是非彼に投票してもらいたい、と言わんばかりの口調で、これは主に熱心な共和党支持者に向かって訴えた。

ところがそれら熱心な共和党支持者も、今回ばかりはムーアやトランプの言うとおりにはならなかった。彼らは恥を鋭敏に感じ取ったのだ。ここでムーアに投票することは、自分自身が恥知らずだということを認めることになる。そんな恥知らずに自分はなりたくない。そういう道徳的な感情が強く働いて、その結果今回の番狂わせになったのだと思う。なにしろ一週間ほど前までは、誰もがムーアの勝利を信じて疑わなかったのだ。その勝利を泡としたのは、アラバマの有権者たちの羞恥心だった。

アラバマの田舎者でも、恥は知っている、というメッセージを、アラバマのごく普通の有権者は静かな形で示したわけだ。なんだかんだ言っても、アメリカの政治の健全さを感じさせる一コマだった。日本では、まず起こりえないことだ。なにしろパンツ泥棒を始め変態人間がぬけぬけといつまでも議員でいられるのであるから、そこには恥も何もないと言わねばならない。





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