メキシコのギャングが警官の首に懸賞金

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メキシコでは、ギャングのボスが警官の首に懸賞金をかけたというので、ちょっとした騒ぎになっているという。懸賞主はメキシコの有力な麻薬マフィア、ハリスコ新世代カルテルのボス、ヴァルデスだ。ヴァルデスは、地元警察の幹部カペラの首に100.000ペソ(約5.000ドル)の懸賞金をかけたそうだ。メキシコでは、私的な恨みを晴らすために懸賞金をかけることがよくあり、その懸賞金は有効に使われるケースが多いそうだから、今回も懸賞金をかけられたカペラの首はほぼ間違いなくはねられるだろうともっぱらの噂だ。

ヴァルデスがカペラの首に懸賞金をかけたのは、自分の家族六人の命を奪われた恨みからだ。ヴァルデスが生後二ヶ月の息子の洗礼儀式を行っていた際に、警官隊に踏み込まれ、生まれたばかりの赤ん坊を含む女房子ども六人を殺された。警察では、銃撃戦の巻き添えをくったと説明しているが、実際には無抵抗のまま銃弾を撃ち込まれて死んだらしい。ヴァルデスはその様子をなすすべもなく見ていたらしいが、その折りの恨みを晴らそうとして懸賞金をかけたということらしい。

ヴァルデスのこの行為に対しては、民衆の間からは批判めいた言葉は聞かれない。むしろ懸賞金が有効に使われることに期待する声の方が大きいらしい。その背景には民衆の警察に対する根強い反感が働いているという。民衆の目には、警察は民衆の生命・安全ではなく、自分たちの内輪の利益を優先する腐敗した集団と映っているらしい。そうした日頃からの感情が働いて、今回の場合にも懸賞金をかけられた警官に同情するものはほとんどいないようだ。

メキシコでは、いわゆる法の支配が徹底していない。というよりほとんど無いに等しい。そこで正義の実現を期待する人々は、悪を直接懲らしめることに重きを置く。正義は他人の手によってではなく、自分の手で実現するものだという考え方が支配的なわけである。

私的な恨みから相手に懸賞金をかけたことをテーマにした映画に「ガルシアの首」がある。その映画を見ると、メキシコでは私的な制裁が犯罪の処罰の大きな部分をしめているということがわかる。だから懸賞金を求めて人の首を付け狙う人間は、唾棄すべき存在とは見られていない。かえって社会の安全弁として機能しているといった感じが伝わってくる。そんなわけだから、カペラの首をとった犯人は半ば英雄扱いされることはあっても、つまはじきされることはないだろうと見られている。そういう社会だからこそ、私的な制裁が意味を持ちうるのだろうと思う。

こう書いたからといって筆者は、麻薬マフィアのボス、ヴァルデスを英雄視しているわけではない。ドナルド・トランプは、メキシコ最大の麻薬マフィアのボス、エル・チャポに親近感を抱いているらしいが、筆者は麻薬マフィアには一切の同情を感じない。





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