日本の産業力は回復したか?

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ここ数年、日本の景気は上向いている。なんだかんだ言っても、景気の良さは株価に反映しているし、雇用も完全雇用に近い状態だ。そうした景気の良さは、賃金の上昇や物価の上昇といった指標には現れてはいないが、したがって景気の実感が末端まで行き渡っているわけではないが、トータルで見ればここ数年の日本の経済は好調を続けていると言ってよい。

その背景に何があるのか? もっとも大きな要因は金融緩和だろう。日銀の異次元緩和はいまも基本的には続いており、それによって大幅な円安が進み、輸出企業を中心に恩恵が及んでいるわけだ。それに加えて、日銀や年金基金などによる株の買い支えが、株価の高値安定と、それを背景にした投機資金の流入を呼び込んでいる。要するに日本経済は、人為的な金融政策によって支えられている側面が強い。そうした人為的な政策がいつまで効果を持つことができるか、またそのことによる副作用がどの程度のものになるか、はっきりとした予測はできない。

しかし、金融緩和だけではなく、日本の産業の競争力が近年強まっていることに、日本経済好調の要因を求める見方もある。最近ブルームバーグに載った記事(Japan has figured out factories)はその典型的なものだ。この記事は、近年日本の企業の競争力が堅実に回復し、それが日本全体の産業競争力を高め、それによって日本の経済が好調になっていると分析している。

この記事によれば、十年前の日本の企業の競争力は、新興国の企業に押されて、世界十位だったが、直近では四位まで回復してきたという。ちなみに一位はドイツだ。ドイツ同様、日本の企業の強みは、高い生産性とそれを裏付ける人材の優秀さにある。つい最近までは、中国に代表されるような人件費の安い国の企業が有利な競争力を誇っていたが、最近ではそれだけではなりゆかなくなってきている。人件費は多少高くとも、優秀な人材に支えられたすぐれた技術力が、高い生産性をもたらす。日本はドイツと並んで、そうした生産力を高めてきており、それが日本企業の競争力の強化と経済の好調につながっている、そうこの記事は分析している。

こう言われると、大方の日本人は、うれしくなるところだが、しかし喜んでばかりはいられない。日本の企業の不祥事がここ最近相次いだが、その原因をよくよく分析してみると、経営者の無責任さはともかく、企業が従業員を大事にしていないことに起因している例が多いように思われる。企業が従業員を大事にしない結果、日本企業の生産力を支えてきた技術が次の世代に受け継がれない。それが技術力の低下と、企業への忠誠心を損ない、不祥事の連続的な発生をもたらしている、と言えるのではないか。

ブルームバーグの記事は、日本の企業が相変わらず往年のモラルを引き継いでいるという前提にたっているわけで、その前提が崩れると、日本企業及び日本の産業の未来はあまり明るいとは言えなくなる。だから、褒められて頬を緩めてばかりいるのではなく、自分の足下をしっかりと見つめ、必要な対応を怠らないようにせねばならない





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