燕子花図屏風:尾形光琳

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尾形光琳といえばこの図屏風が浮かび上がるほど有名な作品で、光琳の代表作と言ってもよい。光琳が法橋の位を授かった元禄十四年(1701)頃の作品と考えられ、光琳の現存する作品のなかでは、もっとも早い時期に属するものだ。モチーフの燕子花は、伊勢物語の八つ橋の場面に取材した。はるばる東へとやってきた業平一行が望郷の念にかられながら、「かきつばた」の五文字を五つの句の頭に読み込んで歌を歌ったと言う、日本人なら誰でも知っている場面を絵画化したものだ。

もっとも、この図柄には、左右両隻ともかきつばたの咲き誇る様が描かれているだけで、人間の姿は描かれていない。そのかきつばたの花も、陰影もなく、したがって奥行きも感じさせず、非常に平板な印象を与える。その平板さがこの図柄の装飾性を際立たせているわけだ。

もっとも光琳は、金地に緑を組み合わせることで、色彩の補色効果を最大限に利用している。このコントラストを踏まえたうえで、濃い藍色で描かれた花びらが強い効果を醸し出している。光琳は形態的な平板性に、色彩のコントラストを組み合わせることで、全体として装飾性に富んだ図柄を生み出した。そこにはデザインの感性を感じさせるものがある。

左右両隻のバランスもよく配慮されている。左隻では左上から右下にかけてゆるやかな下降線を演出し、右側に広くあいた空間に続くようにして、右隻の花の群れ(上図)が描かれている。

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これは左隻の図柄。右端に花のない株があるが、これが左右両隻の図柄を結びつける役目を果たしているように見える。

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これは右隻の一部を拡大したもの。葉も花も平板に描かれていながら、圧倒的な存在感を主張しているように見える。

(紙本金地着色 六曲一双 各150.9×338008cm 根津美術館 国宝)






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