花咲く港:木下恵介

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昭和十八年公開の映画「花咲く港」は木下恵介のデビュー作である。九州の離島を舞台に、気のいい島人とそれを騙そうとするペテン師とのやりとりを描いている。その離島がどこなのか、画面からは明確に伝わってこないが、どうやら長崎から遠くないところにあるように思われる。最後に自首したペテン師たちが、警官に船に乗せられて連行される先が長崎だからだ。

小沢栄太郎と上原謙演じるペテン師のコンビが、島の恩人の遺児を騙って島人の信頼を得、それをよいことに金をだまし取ろうとする。ただだまし取ろうというのではなく、島の恩人の意思を汲んで、造船所を作ろうともちかけ、その造船所の資金を株式の形で集めたものを持ち逃げしようというのだ。

だが、付き合っているうちに、ペテン師たちは島人たちの純朴な心映えに感心し、そんなかれらを騙して金を持ち逃げすることがはばかられるようになる。一方、造船所のほうはとんとん拍子に計画が進み、晴れて船の浸水を迎えるようになる。最初は、船を作っても果たして売れ行きがよいかどうか不安だったが、あたかも太平洋戦争が始まって造船需要が高まって来た。そんな時代の機運にのって、その造船所も反映するに違いない。

島人たちがそんな抱負に胸を躍らせる一方、ペテン師たちは自分たちの行いを深く反省し、警察に自首するというわけである。

そんなわけでいかにも甘っちょろい印象を見る者に与えるのだが、そんななかでも見どころがないわけではない。一つは、太平洋戦争が勃発した時の島人たちの反応だ。島人たちは日本が米英を相手に開戦したことを知るや、俄然愛国者ぶりを発揮し、お国のために役立つためにも、造船所の経営を成功させねばならぬと決意する。その経営に異議を唱えるものがあれば、愛国心の名のもとにかれを非難糾弾するのだ。その糾弾役を笠智衆が演じていたが、それがなかなか堂に入っている。笠智衆は木下のこの後の作品「陸軍」のなかでも愛国心を発揮していたが、そういう役が似合うようである。とにかくその語り口には独特の風格があって、往時の愛国者のイメージを如実に感じさせるのである。






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