ティントレット:ルネサンス美術

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ティントレット(Tintoretto 1518-1594)は、ルネサンス後期のヴェネツィア派を代表する画家である。ティントレットは染物屋の息子を意味するあだ名で、本名はヤコボ・ロブスティという。ティツィアーノのもとで修業し、1540年頃に独り立ちした。その画風は、ティツィアーノのメリハリある色彩感に加え、情熱的でダイナミックな人物描写に特徴がある。

ティントレットの名声を確立したのは、1548年の作品「奴隷を救う聖マルコ」(上の絵)。これは、ヴェネツィアのサン・ロッコ同信組合の依頼で制作された。主人の許可を得ずに聖マルコを礼拝する旅に出た奴隷が、帰宅後主人から処罰されようとするところを、聖マルコが空から飛来して救う所を描いている。このエピソードは、「黄金伝説」の中に出て来るが、それには聖マルコが空から飛来したとは述べていない。ティントレットの独自の解釈にもとづく創作である。

奴隷は地上に組み伏せられ、いまにも剣で刺されようとしている。そこへ聖マルコが空から飛来して奴隷に向って救いの手を差し伸べる。主人と思しき人物は、聖マルコの勢いに圧倒されて逃げようとする有様である。

この絵のポイントは、聖マルコの描き方にある。短縮法を活用して、あたかも空中に浮かんでいるような遠近感を演出し、しかも人物の表現には躍動感がこもっている。このようなダイナミックな表現が、当時の人びとに新鮮な印象を与えたようだ。(1548年 カンバスに油彩 415×541㎝ ヴェネツィア、アカデミア美術館)

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これは、「聖ゲオルギウスと龍」。巨大な龍に生け贄にされそうになった娘を、聖ゲオルギウスが助けるという伝説を描いたもので、聖ゲオルギウスはキリスト教を、龍は異教を現わしていると言われる。見どころは難を逃れて走る女性の描き方にあり、背後の聖ゲオルギウスの描き方とあいまって、画面全体がダイナミックな躍動感につつまれている。(1558年 カンバスに油彩 158×100㎝ ロンドン、ナショナル・ギャラリー)

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これは、「最後の晩餐」。サン・ジョルジョ・マジョーレ聖堂の内陣を飾るために依頼された作品。最後の晩餐のモチーフは、ダ・ヴィンチほか多くの画家が手掛けたが、それらの殆どは、イエス以下の人びとを横一列に配したものだった。それに対してティントレットは、テーブルを斜めに描いて奥行きのある画面構成をし、さらにキリストらを見守る多くの人々を描き加えるなど、独自の解釈で画面作りをしている。この絵にも、人々の動きを通じて、躍動感が込められている。(1594年 カンバスに油彩 365×568㎝ ヴェネツィア、サン・ジョルジョ・マジョーレ聖堂)






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