辛螺に蘭図:雪村の世界

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「辛螺に蘭図」は、落款に「中居斎雪村老翁筆」とあるところから、雪村四十歳頃の作品と考えられる。当時は齢四十をもって老人と称するのが普通だったからだ。モチーフは、辛螺の貝殻に植えられた蘭の花。辛螺は田螺に形の似た巻貝で、そんなに大きくはない。そこに欄を植えるというのだから、小さな種類の蘭なのだろう。

何の変哲もない、単純な構図の絵だが、その単純さが何とも言えない余韻を生んでいる。この構図は、元代の画家子庭祖柏の「辛螺に石菖蒲図」をもとにしているとの指摘がある。原画のほうは、蘭のかわりに石菖蒲が植えられているのであろう。石菖蒲よりは蘭のほうが品格を感じさせるので、雪村はそこに自己主張を込めたのだと思う。

それにしても、辛螺に蘭の組合せは奇抜である。この絵は、数多い雪村の作品の中から、かれの代表作として、朝岡興禎の「古画備考」に唯一掲載されている。よほどこの絵に魅かれたのだろう。

墨を基調とし、代赭で淡彩を施している。墨の塗り方は控え目で、全体として淡白に仕上がっている。

(掛幅 紙本墨画淡彩 30.2×35.0㎝)






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