長い髪の浴女:ルノワールの世界

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1890年代に円熟期を迎えたルノワールは、数多くの裸婦像を描いたが、中でもこの「長い髪の浴女 Baigneuse aux cheveux longs」はもっとも完成度が高い。腰のあたりまである長い髪を垂らしながら、一人の少女がいまにも水を上がろうとする一瞬を描いている。ルノワール独特の、スナップショット的な、動きを感じさせる絵だ。

少女は透き通るような肌で、頬には赤みを帯びている。右手に持った衣装で胸のあたりを抑え、目は前方に向けられている。その視線の先には何があるのだろうかと、思わずつられてしまうのは、この絵のもつ魔力のようなもののせいだろう。

背景は、森とそこを流れる川だが、その描き方は工夫を感じさせる。リアルではなく、デフォルメされているが、決してぞんざい印象は与えない。森は森らしいし、川も水の流れのダイナミズムを感じさせる。足元に立っているしぶきの表現は秀逸だ。

モデルが誰かは、はっきりとはわからない。おそらく素人の若い女性なのだろうと思う。その若い女性が、健康な官能を感じさせるこの絵は、ルノワールの傑作の一つに数えられる。

(1895年 カンバスに油彩 82×65㎝ パリ、オランジュリー美術館)






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