トカゲにかまれた少年:カラヴァッジオの世界

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「トカゲにかまれた少年」も、「病めるバッカス」とともにカラヴァッジオの最初期の作品であり、おそらくプッチの家に寄食していたころに描いたものだろう。この絵にも、まだ稚拙さが感じられる。全体が暗い印象で、人物像がその暗さのなかに沈み込んで見えるほど、めりはりのはっきりしない絵である。しかし、なんとなく気迫のようなものは感じられる。

少年は、肩を露出し、髪にはカーネーションの花をかざしている。これは、当時ローマに徘徊していた男娼のスタイルである。カラヴァッジオは、街から男娼を拾ってきて、ポーズをとらせたのだと思われる。

この少年は、トカゲにかまれ、その痛さに顔をしかめているのだが、カラヴァッジオはなぜそんなことをモチーフに選んだのか。それには、背景がある。当時、ソフォニズバ・サングイッソラという画家のスケッチが話題になった。それは、ザリガニに指をかまれて泣き叫ぶ小さな子どもの姿を描いたもので、カラヴァッジオはそれにインスピレーションを受けて、この作品を描いたのではないかと思われる。

少年が泣くなどとは、常識的には恥ずかしいことだが、少年を同性愛の対象と考えれば、その泣く顔はチャーミングに見えるのだろう。だからこの絵は、カラヴァッジオの個人的な趣味をも反映しているわけだ。

花瓶や花の描き方には、「病めるバッカス」に比べて進歩の跡が見える。この頃のカラヴァッジオは、日々に著しい進歩をしていたのであろう。

(1593年ごろ カンバスに油彩 65.8×52.3㎝ ロンドン、ナショナル・ギャラリー)






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