安楽死と嘱託殺人

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ALS患者に対して薬物を投入し死亡させた医師二人が嘱託殺人罪で逮捕されたという。このニュースに最初に接した際には、事件の背景がはっきりしなかったので、なんとも判断のしようがなかったが、その後、新聞等で報道されていることからして、嘱託殺人で起訴されるのはやむをえないと考えるに至った。

新聞等が報道していることから、次のようなことがわかってきた。二人の医師は患者の治療にかかわったことがなかった、つまり主治医とはいえなかったこと。患者の訴えはある程度理解できないわけではないが、安楽死以外に苦痛を逃れる手段がなかったとはいえないこと。また、医師らと患者との間に金銭授受の関係があった、などである。これでは、安楽死のほう助とは言えず、嘱託殺人と判断することには合理性がある。特に三番目の金銭の授受は、嘱託殺人を強く裏付けるものと言われても仕方がないだろう。

嘱託殺人が社会の耳目を集めた例としては、東海大安楽死事件と川崎病院事件がある。後者は2002年に最高裁で嘱託殺人罪が適用されたが、類似事件をめぐるものとして最新のケースである。この事件は、患者の気持の切実性や、患者の苦痛に同情した女性医師の真摯な態度などからして、世間の同情を集めたものだが、結果は嘱託殺人と認定されたわけだ。それについては、真剣な医師の気持や患者の意志を踏みにじるものだとの批判的な意見も出た。そうした意見を反映する形で、周防正之が「終の信託」という映画を作ったりした。

映画では、安楽死と嘱託殺人の境目と言うべきものに焦点を当てていた。その境目について法的に指摘された例として、東海大安楽死事件についての最高裁判決がある。判決は、安楽死が許容される場合として、つぎの条件がいずれも満たされていることをあげている。

1.患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること
2.患者は死が避けられず、その死期が迫っていること
3.患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くしほかに代替手段がないこと
4.生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること

川崎事件の場合には、これらの条件をいずれも満たしていないという理由で有罪になったわけだが、その事実認定が厳格すぎて、被告の女性医師にとって過酷すぎるという批判が出たわけである。したがって、今後安楽死問題を考える際には、上記の条件をはじめ、どのような条件を判断基準にすべきか、問題の整理が求められていた矢先に今回の事件が起きたのである。

この事件は上記判例の安楽死についての基準を満たさないばかりか、先程も触れたように、患者とはまったく関係のなかった医師たちが、あたかもビジネスのようにして、患者を死に至らしめたということになる。その背景にどんな動きがあったのか。この問題を公正に議論するためにも、事件の詳細を明らかにすべきだと思う。





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