五時から七時までのクレオ:アニェス・ヴァルダ

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アニェス・ヴァルダは、女流映画作家の先駆者といえる人だ。ベルギー生まれだがフランスで育った。キャリアとして映画人を目指していたわけではなかったが、1955年に自主制作した「ラ・ポアント・クールト」がきっかけで映画界への道を選んだ。この映画は、自分が少女時代を過ごした南仏セートを写したドキュメンタリー風の作品だったようだ。斬新な映像処理が後に評判になって、ヌーヴェルヴァーグの先駆的作品と評価された。

1961年に作った「五時から七時までのクレオ(Cléo de 5 à 7)」は、彼女にとっては初の長編商業映画である。病気で死に直面した若い女の、実存をめぐる苦悩をテーマにした作品で、いかにもヌーヴェルヴァーグ風といった作風の映画である。

クレオという名の若い女性が、医師から癌の可能性を指摘される。患部はお腹だというから子宮癌かもしれない。正確なことは七時に判明するので、その時間に問い合わせて欲しいと言われた彼女は、それまでの間に心の整理をしようと思う。映画はその彼女の、五時から七時までの二時間の行動を、分刻みに追っていくのである。

彼女は歌手ということになっており、中年女性のマネージャーが身の世話まで焼いてくれる。最初はそのマネージャーと一緒に行動しているが、そのうちに一人で行動するようになる。それを時間軸で追っていくと次のような具合だ。

まず最初に占いをする。老婆によるタロットカードの占いだ。老婆の表情からクレオは、自分の死期が近いことをあらためて悟る。気分直しに帽子屋に入り、店中の帽子を次々と被っては、一番気に入った帽子を買う。タクシーでアパルトマンに戻るとやがて恋人がやって来る。しかし恋人は自分を慰めてはくれない。また、作詞家と作曲家のコンビがやってきて、彼女に新曲のレッスンをするのだが、彼女はいまひとつ気乗りしない。

一人で外に出たクレオは、街角でトカゲを飲み込む男の芸を見たりしながら、あるカフェでコニャックを飲む。その際にディスクジョッキーで自分の持ち歌をかけるのだが、誰も聞いている者がいないことにがっかりする。

さるアトリエを訪ねて、そこでヌードのポーズをとっている友だちのドロテと合流する。ドロテの運転する車で、別のアトリエを訪ね、そこでドロテの恋人が映画フィルムの編集をしている現場を見る。映画の内容は、セーヌ川の岸辺で男女が恋のいたずらをするというものだった。その折に、鏡を落として割ってしまう。

外に出た二人は、殺人現場をとおりがかる。そこでさっき割れた鏡が、その殺人を暗示していたことをさとる。ドロテと別れたクレオは、天文台の付近でタクシーを降り、そこからモンスリ公園へ向かって歩く。天文台からモンスリ公園までは、地図で見ると一キロ位の距離だ。

モンスリ公園でクレオは、一人の馴れ馴れしい男に出会う。男は帰休兵で、その夜のうちに兵舎に戻らねばならないのだが、クレオのことがすっかり好きになってしまって、できたら付き合いたいと思う。クレオのほうもかれが好きになったようだ。というのも、男は話し好きで、次から次へと面白い話をしては、彼女の屈託を慰めてくれるのだ。だから、裸になると子どもができる、というような卑猥な発言もあまり気にならない。

クレオと男は、七時に約束の病院に赴く。そこで担当の医師から話を聞く。思いがけず、癌の心配はないというのだ。それをクレオが聞いたところで、映画は終るのである。

実存的な悩みをテーマにしている割には、終わり方があっけないが、そこはフランス人のこと。悩みを軽く受け流すのが、粋なスタイルというわけであろう。なお、クレオとは、クレオパトラに由来する名前ということだ。






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