バッカスの勝利:ベラスケスの世界

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24歳で宮廷画家になったベラスケスは、29歳で王室画家に抜擢された。王室画家というのは、王の身近に仕える身分で、側近といってもよかった。実際ベラスケスは、以後王の側近として、さまざまな宮廷行事に関わる一方、王の美術コレクションの監督役をもつとめることになる。つまり、画家であるとともに、役人でもあったわけだ。ベラスケスの作品が120点ほどにとどまっている理由は、役人としての時間をさかれ、画業に専念できなかったことにある。

「バッカスの勝利」と題したこの絵は、王室画家に抜擢された頃に制作したもの。ベラスケス初期の代表作といえるもので、「酔っ払いたち」という通名で、当時から非常に有名だった作品だ。

「バッカス」のタイトルが示すとおり、ギリシャ神話に取材してはいるが、実際には当時のスペイン社会を反映したものである点で、ボデゴンの延長のような面も持つ。というのも、バッコスこそ裸体で神話的な雰囲気がないわけではないが、かれをとりまく人物たちは、どれもその辺にいる庶民に異ならない。その卑俗な表情やら、粗末な衣服から見て、物乞いをモデルにしたと思われるほどである。この時代、スペインでは物乞いが許可制になるほど、貧しい人びとが多かった。

葡萄の葉を冠にかぶった半裸のバッカスが、大勢の男たちに囲まれて酒盛りをしている。バッカス自身は、跪いた男に葡萄の冠をかぶせているところだ。葡萄は無論ワインのシンボルだ。

この絵をフェリペ二世は「余のために描かれたバッカス」と称し、自らの寝室に飾っていたという。

(1628年 カンバスに油彩 165×225㎝ マドリード、プラド美術館)






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