フェリペ四世の肖像:ベラスケスの世界

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24歳で宮廷画家に抜擢されたベラスケスは、早速国王フェリペ四世の肖像画を制作する。その絵は国王に大変気にいられたというが、現存していない。わずか一日で描かれたという逸話が伝わっているから、おそらくスケッチ風の簡素なものだったと思われる。フェリペ四世はその時18歳であった。

現存するフェリペ四世の肖像画として最も古いものは、1627年(ベラスケス29歳のとき)制作のものである。体をやや斜めにして正面を向いている構図のこの絵は、国王の姿を非常に理想化している。顔の比率が極端に小さく、十頭身以上に誇張されている。

この絵は、肉眼でわかるほどの下絵があり、その上に描き直されたものである。下絵は、両足を軽く開いているほかは、だいたい同じ構図であるが、顔の比率はもっと大きく、また表情はやや生硬さを感じさせる。それと比較すると、この最終バージョンは、表情は優雅であり、かつ全体に威厳に満ちた雰囲気を感じさせる。おそらく王たるに相応しい威厳を、肖像画に持たそうとして、描きなおしたものと思われる。

この作品は、背景を単純化し、ほとんど何もない空間といってよい。それにもかかわらず立体感をもって迫って来る。

なお、フェリペ四世は15歳でスペイン王になった。同時に、ポルトガルのほか、ナポリ、ミラノ、ネーデルラント、ブルゴーニュの君主でもあり、またメキシコを始め多くの植民地を支配する大君主であった。私生活では30人もの子どもを設けるなど精力家の一面をもっていたが、王としての統治能力には欠けていたと言われる。ただ美術作品には大きな関心を持ち、世界中からすぐれた美術品を収集した。それが今日プラド美術館のコレクションを構成しているのである。

(1627年 カンバスに油彩 201×102㎝ マドリード、プラド美術館)






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