黒衣の刺客:侯孝賢

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侯孝賢が2015年に作った「黒衣の刺客(刺客 聶隱娘)」は、一応台湾映画だが、中国の古代史に題材をとった武侠映画である。武侠映画というのは、武術の達人が悪党相手に暴れまわるというのがパターンだが、この映画の場合には、その武術の達人は女ということになっている。しかも、その女に武術を教えたのも女の導師である。これは中国が男女平等を重んじる文化を反映しているのかといえば、そうでもないらしい、中国でも女が武侠になって暴れまわるという伝説はほとんどないらしいし、また道教の導師に女がいたという話も聞かないから、これは侯孝賢の創造ということなのだろう。女が武術で活躍する話は、日本ではくノ一伝説として残っているが、中国では、そういう伝説は聞いたことがない。やはり中国は、男尊女卑の国柄なのである。

武侠映画だから、アクションが売り物のはずだが、侯孝賢の演出は、小津や溝口など昔の日本映画の巨匠を見倣って、しごくのんびりしたタッチで進むので、どこかミスマッチを感じないではおれない。とにかく、主人公の女武侠をはじめ、みなのんびりと動くので、手に汗握るアクションというイメージとはほとんど無縁である。なぜこういうミスマッチな映画を作る気になったか、本人の侯孝賢に聞いてみたいところだ。

筋書は、唐の終わり頃の時代設定ということ以外、とくに特徴もないので触れない。ただ一つ、鏡磨きの男が出て来て、主人公たちが危機に陥るたびに救助の手を伸ばすのだが、これがどうも遣唐使の日本人という設定になっているらしい。主人公の女武侠はこの男と共に、新羅へと旅立っていくのである。それに必然性がないことは、この映画全体に何らの必然性が見られないことの一例でもある。日本からの遣唐使を端役に加えたのは、日本贔屓の侯孝賢の愛嬌だろう。






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