酔画仙:イム・グオンテク

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イム・グオンテクの2002年の映画「酔画仙」は、李氏朝鮮末期に活躍した画家チャン・スンオプ(張承業)の生涯を描いた作品。チャン・スンオプは、朝鮮の絵画史を飾る大画家ということだ。孤児として育ち、まともな教育を受けなかったにかかわらず、歴史に残る大画家になったというので、韓国では人気のあるキャラクターだそうだ。そんなことからこの映画は、韓国では大ヒットになった。日本人にはその良さはなかなか伝わらないかもしれない。

チャン・スンオプが生きた時代は、李氏朝鮮の末期であり、日本の幕末に似た雰囲気に包まれていた。攘夷派と開化派が対立する一方で、外国勢力の介入が本格化していた。そういう時代の流れの中で、朝鮮人は同胞同士で争うことに忙しく、一致団結して外国勢力、特に日本に立ち向かうことができなかった。それが韓国の植民地化につながった。そんなメッセージを感じさせる映画である。

主人公のチャン・スンオプ自身は、非政治的な人間で、政治のことはなにもわからない。ただ絵の師匠を始め、周囲には開化を目指すグループがあったりして、そうした動きに巻き込まれることはある。それについて、なにか意見があるわけではない。彼の関心は、酒を飲むことと絵を描くことだけだ。その他に、時たま美しい女に恋をしたりする。だがそれらの恋はどれも成就しない。かれは放浪生活のまま生涯を終わるのである。

そんなわけで、特異なキャラクターをもった大画家の生涯を、興味本位で取り上げたというような印象が強いが、それは我々外国人には、チャン・スンオプという画家が馴染のうすい人物ということからきているのかもしれない。先ほど言ったように、韓国では大ヒットしたというから、彼らにはこの人物に感情移入できる根拠があるわけである。ちょうど我々日本人が、国際的には無名といってよい山下清に親近感を覚えるようなものだろう。

筋書には、それなりにドラマチックなところがある。それは韓国近代史のもつドラマ性に負っているのであろう。韓国の近代史には、民族として不如意な所が多かったわけだが、それがそれなりに歴史に彩りを添えているわけである。この映画はそうした彩りを背景にしているので、韓国人にとっては、感情に訴えてくるものを覚えるのだと思う。






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