
「渓澗野雉図」は、崋山の花鳥図の大作。渓澗すなわち谷川に羽を休める雉の夫婦を描いている。オスは身を乗り出して、谷川の水を飲もうとし、メスはオスの背後に安らってオスの方を見つめている。長閑な光景である。
この絵は、写生を日本画の伝統的構図と組み合わせたものだ、写生は、雉の描き方に表われている。肖像画で発揮した写生の技術を、雉の表現に取り入れたわけである。一方、伝統的な構図は、右手前の土坡によって強調されている。
雉の表面に霧をかぶせたところも伝統を思わせるが、これはどうも、絵の効果を損なっているようである。この霧があるおかげで、雉の存在感が弱まり、背景とのコントラストが曖昧になっている。ここはやはり、雉にメリハリをつけるべきだったと思われる。
魚の描き方も不自然だ。まるで水面に浮かんでいるように見える。その魚と、雉のつながりが断ち切られている。雉の視線の先に魚があるといったふうに、二つのオブジェに何らかの関連をつけていたら、見る者の視線が滑らかに動くと思う。
(天保八年 絹本着色 142×86㎝ 山形美術館)
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