トラヤヌスの裁定:ドラクロアの世界

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「トラヤヌスの裁定(La justice de Trajan)」と題するこの絵も、ダンテの神曲から取材したものである。神曲煉獄編第十歌に、ローマ皇帝トラヤヌスの息子に自分の息子を殺された寡婦が訴える場面がある。その訴えに対してトラヤヌスは、息子が継承すべき権利をこの寡婦に与えようと言う裁定を出す。その場面を想像しながら、ドラクロアはこの絵を描いたのである。

この絵については、ボードレールが次のように評している。「いかにも奇体なばかりに輝かしく、さわやかな、そして活気と壮麗さにみちあふれる作品である。皇帝はいかにも威風にみちているし、回廊の周辺に雲集しあるいは行列に従って進む群集は、いかにも活気にあふれているし、嘆きに沈む寡婦は、いかにも劇的である」

この作品は1940年のサロンに出展され、大きな反響を呼んだのだが、中には批判をする者もいた。バラ色に描かれている馬が現実ばなれしていると言うのだ。それに対してボードレールは次のように皮肉たっぷりに反論している。「この作品は、かつて、そのバラ色の馬について、まるで、かすかにバラ色がかった馬が存在しないかのように、またどんな場合にも、画家にそんな馬を描く権利はないというかのように、カル氏、このゆがんだ良識を持つ人物によってひやかされたがために、有名となった作品である」

画面構成は、ドラクロアの想像にもとづくものだ。ダンテの記述をもとにしながら、ドラクロアはなるべく劇的な形で表現したいと思ったのだろう。その思いは、鮮やかな色彩によく現われている。

(1940年 カンバスに油彩 495×396cm ルーアン私立美術館)






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