ガザの美容室:タルザン・ナサール

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2015年の映画「ガザの美容室」は、ガザに暮すパレスチナ人監督タルザン・ナサールが、フランス資本の協力を得て製作した作品。一美容室を舞台に、ガザに生きる人々の厳しい状況を描いている。ガザといえば、イスラエルによる度重なる攻撃が人道問題として脚光を浴びてきたが、この映画にはイスラエルによる攻撃は出て来ず、そのかわりガザにおけるハマスとファタハの軍事衝突が出てくる。今ではハマスはガザを代表する立場だが、かつてはファタハとの間で激しい主導権争いを演じていた。この映画は、その主導権争いが背景になっている。

2015年といえば、その直前にはイスラエルによるガザへの大攻撃が行われている。その攻撃で数千人規模のパレスチナ人が殺されたわけだから、イスラエルの暴力に対する批判が世界的に高まっていたはずだったが、この映画はそれには触れず、はるかそれ以前にあったハマスとファタハの軍事対立を取り上げているわけだ。どういう意図でそうしたのか、興味をひかれるところだ。

二人の女性が働く美容室に十数人の客が集まっている。これから結婚式に臨む予定の花嫁とその親族、出産間際の女性とその妹、ヒジャブをかぶった女性とその女友達、居丈高な態度で怒鳴り散らす初老の女といった具合だ。この初老の女を演じたヒアム・アッバスはパレスチナを代表する女優で、「シリアの花嫁」や「パラダイス・ナウ」といった作品でも出てきた。

女性だけとあって、みな他人の目を気にしない。しかし、ちょっとしたことで外へ出る時にはヒジャブをかぶるのを忘れない。

美容師が二人しかおらず、そのうちの一人は個人的な問題を抱えていて仕事に専念できないとあって、待っている客にはなかなか順番が回ってこない。だからみなイライラを爆発させたい気持にもなる。しかしイライラをなるべく押さえて待つことにする。その合間に他愛ない会話を楽しむといった具合だ。日本でも床屋はおしゃべりの舞台となるものだが、ガザも同じようで、客たちのおしゃべりには際限がない。

そのうち、店の外では、ハマスとファタハの対立がエスカレートして、ついに大規模な戦闘に発展する。銃弾が響く音や、男たちの怒声が入り乱れ、女たちは脅威を感じないでもないが、なんとかやり過ごす。とはいえ、花嫁は結婚式の時間に間に合わなくなるし、妊婦は流産しかねない事態に陥る。それでもみななんとか生きようとするのは、ガザでは、これくらいの暴力は日常的になっていて、いちいち驚いてはいられないからだ、というようなメッセージが伝わってくる作品である。





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